ハンセンの乱入＆知覚の相違

　ブロディとスヌーカが優勝を決めた1981年12月13日の世界最強タッグ決定リーグ戦の最終戦のメーンの試合は,超獣とスーパーフライが優勝を決めた試合というよりは,不沈艦が試合中に加勢した試合という印象の方が強いのではないかと思います。
　リング上でドリーがスヌーカにスピニングトーホールドを決めている間に,ブロディとテリーは場外で乱闘となりました。ここはファンクスにとってはチャンスの場面でしたから,ブロディのカットをテリーが阻止しようとしたのは当然です。その間,ドリーが攻撃しているのとは正反対側の場外で,ブロディがテリーをハンセンに向って飛ばし,ハンセンがテリーにウエスタンラリアートを決めました。これでテリーは戦闘不能に。残りはすべてドリーがひとりで戦いましたが,ブロディとスヌーカのふたりが相手ではさすがにきつく,最後はスリーカウントを許したのです。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　黒い呪術師が新日本に引き抜かれた報復として,全日本はインドの狂虎を引き抜き返しました。ハンセンの引き抜きはその報復の第二弾でした。倉持隆夫さんは,『マイクは死んでも離さない』の中で,馬場はリング上で何が起こるのかということについては何も教えてくれなかったといっていますが,このときにハンセンがブロディとスヌーカのセコンドにつくということも知らされていなかったそうです。ただ,ハンセンはその前の大会から全日本の会場に姿を現していましたし,解説の山田隆さんからは引き抜きの話は聞いていたので,実況では咄嗟に対応することができたといっています。
　このハンセンの引き抜きに一役買ったのが,テリーだったそうです。ハンセンは元々はドリーとテリーに師事していましたから,話もしやすかったのでしょう。この日,テリーがハンセンのウエスタンラリアートを受けて戦闘不能に陥るというセンセーショナルなシーンを見せたのは,自分が声を掛けたハンセンが本当に全日本に移籍してくれたことへの感謝の念と,自分が引き抜き,今後は全日本のトップ外国人レスラーとして戦っていくことになるハンセンの強さを,観客やテレビの前のファンに伝えるためではなかったかと思っています。

　第三部定義三で示されているように,感情affectusというのは『エチカ』ではある人間の身体humanum corpusの状態を意味すると同時に,その人間の精神mens humanaの状態も意味します。したがって第三部諸感情の定義三でいわれている,大なる完全性perfectioから小なる完全性への移行transitioというのは,人間の身体の完全性の移行であり,同時にその人間の精神の完全性の移行であると理解しなければなりません。このこと自体は,第二部定理一三により,人間の精神の本性naturaを構成する観念ideaが,その人間の身体の観念であり,よってひとりの人間の精神と身体の本性は一致しなければならないということと,完全性すなわち実在性realitasというものが,力potentiaという観点から把握される本性であるという点に注意すれば必然的にnecessario帰結します。ある人間の精神と身体の本性が一致するということは,実在性も一致するということでなければならないからです。
　このように考えれば,人間の身体を構成する部分の合一unioのあり方が変化することによってその人間の身体の実在性がより大なる実在性からより小なる実在性へと移行する,もちろん僕は消化不良という実例を念頭にこれをいっていますが,そのことが,その人間の身体の観念の本性によって説明される限りでの神Deus,要するにその人間の精神によって知覚されるというとき,その知覚perceptioというのは,ある認識cognitioの対象があって,その対象となっているものを判断するというような意味において知覚するpercipereということではなくて,むしろ文字通りにその人間の精神が悲しんでいるというように理解しなければならないということになります。ここでいっている知覚が,概念と知覚とを厳密に分けた上での知覚なのであって,表象の種類としての知覚ではないということはいうまでもないことですが,概念conceptusと知覚を分けた上で悲しみtristitiaを知覚するという意味においても,人間の精神が自分の本性に何らかの変化が生じているということを知覚するという場合と,自分の身体がより大なる実在性からより小なる実在性へと移行するということを知覚するということの間には,同じような認識作用として知覚するとは,必ずしも理解することができないような差異があるということは,注意しておかなければいけないことだろうと思います。