中野のギャラリー冬青に足を運び、北井一夫写真展『Walking with Leica 3』を観る。
前回同様、「引きこもり」ものと風景である。風景であっても、例えばビルの工事現場の外幕から顔を出す樹木の葉叢の「顔」を変えて3点。「引きこもり」も、ライカレンズと入れ歯を組み合わせたり、本棚の文庫本の前に即席で蝋燭を立てたりして、それぞれ3点セットにしている。3という数字はともかく、まるで床の間で正座をして、角が微妙に合うように、とん、とん、と箱を積み上げているような感覚は、相当に奇妙である。静かなる反骨の人、その眼がもはや余裕を持って座っている。奇妙どころか過激なのだ。
プリントはこれまでに増して柔らかいように感じたが、合わせて出された同名の写真集では、オリジナルプリントよりもややコントラストが強い。ギャラリーにおられた冬青社の社長によれば、『1』『2』との差をつける意味もあったのだ、という。
北井さんに訊ねると、今回の写真群のうち、「引きこもり」ものはヴィゾ用のエルマー65mm、風景はほとんどエルマー50mmF3.5を使っており、フィルムはすべてT-MAX100、印画紙はクロアチア製のバライタ紙だそうだ。コダック破産申請の件、「さっき聞いて驚いた」とのこと、たださほど心配していない様子だった。さもありなん、である。
折角なので、最近古本を入手した『アサヒカメラ』誌1976年6月号をお見せした。ここに、北井さんが木村伊兵衛賞(第1回)を受賞した記念として、『遍路宿』と題されたカラー作品群が掲載されている。四国八十八箇所巡りのお遍路さんたちを撮影したものである。ライカM4にズミルックス35mmF1.4と50mmF1.4、キヤノン25mmF3.5に加え、珍しいことに、ライツミノルタCLにロッコールの40mmF2が使われており、フィルムはエクタクロームとハイスピードエクタクロームとある。室内もあって暗いため、増感のきかないコダクロームよりもエクタ(ISO64と200)を使ったのだ、との言。
微妙な間合いや滲みなど相変わらず素晴らしいのだが、やはり、これまで写真集には収録していないという。ところが、冬青社と組んで、2014年にでもこの作品群を再プリントし、写真展を開く計画もあるという吃驚する話。これは期待しなければならない。
●参照 北井一夫
○『ドイツ表現派1920年代の旅』
○『境川の人々』
○『フナバシストーリー』
○『Walking with Leica』、『英雄伝説アントニオ猪木』
○『Walking with Leica 2』
○『1973 中国』
○『西班牙の夜』
○『新世界物語』
○『湯治場』
○中里和人展「風景ノ境界 1983-2010」+北井一夫
○豊里友行『沖縄1999-2010』