goo blog サービス終了のお知らせ 

Sightsong

自縄自縛日記

石牟礼道子『苦海浄土 わが水俣病』

2009-05-20 01:55:47 | 九州

最首悟さんの話を聴いてみたいとかねてから思っていて、調べてみると「最首塾」という会合がある。その一環として、『天の魚』という「ひとり芝居」を観るという企画がなされていた(>> リンク)。日によっては加藤登紀子、今福龍太らのトークもある。これを観に行こうと思って、原作の、石牟礼道子『苦海浄土 わが水俣病』(講談社文庫)を読んだ。

チッソの企業城下町であった水俣において、如何に企業や政府が厚顔無恥であったか、ということが強く印象付けられる。受苦の心の中を描いた筆致は途轍もない。軽々しく「公害」だとか「怨念」だとかいったことばを使うことを躊躇するほどだ。

自分は小学校の授業で、「4大公害病」のひとつとして水俣病を教わった。その写真や、猫が狂い死にする様子などによる有害物質への原初的な畏怖は心に滲み付いている。思い至らなかったのは、これは歴史ではなく、現在と陸続きだということだ。いまの子どもたちは、社会科の授業でどのように教わっているのだろう。

「水俣病わかめといえど春の味覚。そうおもいわたくしは味噌汁を作る。不思議なことがあらわれる。味噌が凝固して味噌とじワカメができあがったのだ。口に含むとその味噌が、ねちゃりと気持わるく歯ぐきにくっついてはなれない。わかめはきしきしとくっつきながら軋み音を立てる。」

「ここにして、補償交渉のゼロ地点にとじこめられ、市民たちの形なき迫害と無視のなかで、死につつある患者たちの吐く言葉となるのである。
「銭は一銭もいらん。そのかわり、会社のえらか衆の、上から順々に、水銀母液ば飲んでもらおう。(四十三年五月にいたり、チッソはアセトアルデヒド生産を中止、それに伴う有機水銀廃液百トンを韓国に輸出しようとして、ドラムカンにつめたところを第一組合にキャッチされ、ストップをかけられた。以後第一組合の監視のもとに、その罪業の象徴として存在しているドラムカンの有機水銀母液を指す) 上から順々に、四十二人死んでもらう。奥さんがたにも飲んでもらう。胎児性の生まれるように。そのあと順々に六十九人、水俣病になってもらう。あと百人くらい潜在患者になってもらう。それでよか」
 もはやそれは、死霊あるいは生霊たちの言葉というべきである。」

ところで、巻末の渡辺京二による解説を読んで驚いた。多くの患者たちの絞りだすようなことばや独白は、聞き書きなどではなく、小説家・石牟礼道子の想像世界から生まれたものだというのだ。もちろん文学作品というものは想像世界の肥大した<しこり>であろうし、またルポでなくとも水俣病の受苦と非対称はえぐるように描かれている(第一、どこにもルポなどとは書いていない)。

とは言え、驚きからこちらに生じた違和感、それから、そもそもエンターテインメントででもあるかのように原作と芝居とを鑑賞しようとした自分が見えたような気がして、芝居に足を運ぶのはやめた。もっとも、ただの不精だからかもしれないが。

●参照
『差別と環境問題の社会学』 受益者と受苦者とを隔てるもの
土本典昭さんが亡くなった


最新の画像もっと見る

2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ひまわり博士)
2009-05-20 12:29:46
一昨日、沖縄から帰ってまいりました。
最終日が梅雨入りで、その前日まで猛暑。
体力消耗です。
 
『苦海浄土』はずっと以前に単行本で読みました。
「公害」という言葉は『広辞苑』の初版には載っていなくて、第2版から項目になりました。
1964年に発行された岩波新書の『恐るべき公害』で、初めて「公害」という言葉が使われるようになって、その後、水俣病や北陸地方のイタイイタイ病などが報道されてから、一般に広まったようですね。(あ、釈迦に説法でした)
しかし当初から、「公害」という言葉には疑問を持つ人が多く、「あれは企業による『私害』だ」とする意見に、ぼく自身も同感でした。
現在、「公害」はあまり使われなくなって「環境破壊」とか「環境汚染」と呼ばれるようになりましたが、先進国での“公害”は、ほとんどが大企業のもたらす「私害」ですね。
 
今回、辺野古や高江に行ってきて、基地の増設はまぎれもなく「環境破壊」、それもそうとう悪質であること、人間としてのまともな神経を持っていたら、出来ることではないと実感しました。
返信する
Unknown (Sightsong)
2009-05-20 19:02:10
ひまわり博士さん
沖縄に行ってこられたのですか。まさに辺野古、高江は公害時代と異なり、環境インパクトがわかっている前提での未必の故意以上、犯罪ですね。
返信する

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。