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自縄自縛日記

大島堅一『原発のコスト』

2013-02-09 06:50:17 | 環境・自然

大島堅一『原発のコスト ― エネルギー転換への視点』(岩波新書、2011年)を読む。

東日本大震災が起きるまで、原発の「安全神話」に疑いの目を向ける人は多くいたが、「原発は安い」ということを疑う人は極めて少なかった(いない、に近かった)。少なくとも、政府発表の発電コストが、議論の大前提として使われていたのは事実である。わたしもそうであり、その数字を使ったこともある。

2010年の『エネルギー白書』によれば、原子力の発電コストは5-6円/kWh。これはLNG火力の7-8円/kWh、大規模水力の8-13円/kWhより安く、従来型エネルギーよりもコスト上優位だという根拠となっていた。勿論、再生可能エネルギーとなると、風力(大規模)10-14円/kWh、地熱8-22円/kWh、太陽光49円/kWhと、コストだけでは勝負にならないことが明示されたものだった。さらには、再生可能エネルギーは出力変動が激しく使いにくい電源であることも相まって、導入が進まなかったわけである。RPS法(2002年)も、さほどの推進力を持たなかった。

ところが、著者によると、原子力の発電コストは、実態を反映したものではない。大震災直後、著者の発言を目にしたときには驚いた。(この段階で、急遽、『これでいいのか福島原発事故報道』(>> リンク)にも反映した。)

本書では、発電に直接要するコストをより実態的な想定に基づいて計算し、さらに、政策コスト(研究開発、立地対策)を加えている。後者を考慮することは確かに必須だ。核燃料サイクルの研究開発も、用地買収やそのための現地工作も、原発そのものが成り立たない類の活動だからである。

それによると、原発の直接発電コストは8.53円/kWh、政策コストは1.72円/kWh、合計10.25円。このコストは、同様に計算された火力(9.91円/kWh)や一般水力(3.91円/kWh)よりも高い。

原発のコストはそれだけではない。事故が起きたときの想定に加え、核燃料の使用後に生じるバックエンドコストも莫大である。政府試算ではバックエンド事業(六ヶ所村の事業も当然含まれる)の総費用は18兆8000億円。しかし著者によれば、実態を反映するなら、それは数倍に跳ね上がるだろうという。今回、上の発電コストに積み上げる示し方はなされていないが(10.25 円/kWhにさらに上乗せ)、確実な試算をすれば、コスト優位は完全に消えてしまうことだろう。

実際に、不確実なバックエンド費用の評価結果は年々上がり続け、1970年代からの30年間に当初想定の10倍以上となっている(山地憲治『原子力の過去・現在・未来―原子力の復権はあるか―』)。

なお、政府公表値(5.3円/kWh)に占めるバックエンド費用は、これまで15%程度とされてきた。その部分が、膨れ上がるということである。仮に5.3円/kWh×15%×数倍だとすれば、2-3円/kWh程度にはなる。5.3円/kWhと比較すべきは、10.25 円/kWh+2-3円/kWh=12-13円/kWhということであり、従来値の2-3倍だということになる。古賀茂明氏は、最近、11-17円/kWhだと発言しているという。

これまでの常識はなんだったのか。あらためて、大変な脱力感を覚える。

●参照(原子力)
小野善康『エネルギー転換の経済効果』
『活断層と原発、そして廃炉 アメリカ、ドイツ、日本の選択』
『これでいいのか福島原発事故報道』
鎌田慧『六ヶ所村の記録』
『核分裂過程』、六ヶ所村関連の講演(菊川慶子、鎌田慧、鎌仲ひとみ)
『原発ゴミは「負の遺産」―最終処分場のゆくえ3』
使用済み核燃料
山本義隆『福島の原発事故をめぐって』
開沼博『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』
高橋哲哉『犠牲のシステム 福島・沖縄』、脱原発テント
前田哲男『フクシマと沖縄』
原科幸彦『環境アセスメントとは何か』
『科学』と『現代思想』の原発特集
石橋克彦『原発震災―破滅を避けるために』
今井一『「原発」国民投票』
『大江健三郎 大石又七 核をめぐる対話』、新藤兼人『第五福竜丸』
有馬哲夫『原発・正力・CIA』
黒木和雄『原子力戦争』
福島原発の宣伝映画『黎明』、『福島の原子力』
東海第一原発の宣伝映画『原子力発電の夜明け』
『伊方原発 問われる“安全神話”』
長島と祝島
長島と祝島(2) 練塀の島、祝島
長島と祝島(3) 祝島の高台から原発予定地を視る
長島と祝島(4) 長島の山道を歩く
既視感のある暴力 山口県、上関町
眼を向けると待ち構えている写真集 『中電さん、さようなら―山口県祝島 原発とたたかう島人の記録』
1996年の祝島の神舞 『いつか 心ひとつに』
纐纈あや『祝の島』


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