Sightsong

自縄自縛日記

『blacksheep 2』

2011-05-03 09:28:08 | アヴァンギャルド・ジャズ

『blacksheep 2』(doubt music、2011年)を何度も聴いている。もっと奇抜でエキセントリックな演奏かという先入観は、良い意味で裏切られた感がある。バリトンサックスとバスクラリネット、トロンボーン、ピアノという楽器の個性をいろいろに出そうという衝動(つまり変な音)とアンサンブル、じわじわと面白みが出てくる。

メンバーは吉田隆一(バリトンサックス、バスクラリネット)、後藤篤(トロンボーン)、スガダイロー(ピアノ)(以下、それぞれY、G、S)。まだ実際の演奏を目の当たりにしたことがない。聴きにいった後であれば、もっとこの音源を愉しめるんだろうね。

公開録音に立ち会った方の話によれば、同じ曲を何度も演奏したということで、その分、アンサンブルの強度も増しているように思える。また、当初の想定タイトルは『SF』で、スタンリー・キューブリック『博士の異常な愛情』のエンディングテーマ曲(爆弾とともに流れる脱力的な奴)も演奏されたそうである。実際に、CDの1曲目は「時の声」、J.G.バラードの同名の小説に捧げられている。ところで、筒井康隆『邪眼鳥』に捧げられた山下洋輔の「J.G.Bird」という曲があって、本人に1997年ころにバラードのことを意識したのか訊ねてみると、「まあ結果的にね!」とはぐらかされた記憶がある。

その1曲目は、Sの単音からはじまり、次第にYとGが入ってくる。トロンボーンは苦しみの声のようだ。バリトンは鳴りまくっている。またSの単音で終わる。2曲目「重力の記憶」は、象の希望の雄叫びのようなYとGのふたりが重なり合っていき、イメージを増幅させる。3曲目「滅びの風」は、バリトンのブルージーさが印象的、片山広明のど演歌テナーサックスのようだ。Sのピアノの強靭さも凄い。4曲目「星の街」での強く進むマーチ風のアンサンブルは、まるで『ウルトラセブン』世界だ。一転して静かな5曲目「星の灯りは彼女の耳を照らす」は、YとGとが薄紙を重ね合わせるように音を作っていき、その中にピアノが楔のように打ち込まれる。6曲目「にびいろの都市」では、モンク風のピアノに続き、トロンボーンがフィーチャーされる。その中でも暴れるYの声が愉しい。7曲目「切り取られた空と回転する断片」は、1曲目との対照的な構成を意識したのか、やはりピアノの単音で挟みこまれる。爆発的なピアノが下から持ち上げる印象のアンサンブルが良い。

前作を聴いていなかったことを後悔させられる。ライヴにも行くことができるかな。

●参照(doubt music)
アクセル・ドゥナー + 今井和雄 + 井野信義 + 田中徳崇 『rostbeständige Zeit』
大友良英+尾関幹人+マッツ・グスタフソン 『ENSEMBLES 09 休符だらけの音楽装置展 「with records」』
翠川敬基『完全版・緑色革命』


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