Sightsong

自縄自縛日記

鄭周河写真展『奪われた野にも春は来るか』

2013-08-01 00:06:33 | 東北・中部

佐喜眞美術館では、鄭周河(チョン・ジュハ)という韓国の写真家による写真展『奪われた野にも春は来るか』を観た。

写真家が撮った対象は、被災地・福島である。

人の姿が視えぬ広大な農地の上で、鳥が舞う。誰かが住んでいるのかどうかわからない一軒家がある。農地の中に、ぽつんと神社が建っている。誰もいない学校のグラウンドがある。津波におかされた老人ホームの壁と、動いているのかどうかわからない掛け時計がある。テトラポットや、決壊した堤防がある。

デジタルで大きく引き延ばされた写真群を凝視していると、本来は懐かしさを感じる筈の里山の風景が、まるで静かに復讐しようとでも考えているかのようななにものかをもって、迫ってくる。静かに叫びそうになる。

里山には、カタストロフ前と同様に、家や、道路や、雑木林や、植林された林がある。それらの変わらなさを観ていると、自然はやわなものではないという考えが湧いてくる。しかし、それは違う。

観客は自分ひとりだったが、まもなく、女性数人がおしゃべりをしながら入ってきた。その中のひとりが、写真を前にして考えを述べていた。―――「春は来るか」、それは戻ってくる、森も戻ってくる。だけど、それは元の森ではないんだよ。だから、基地だって災厄がある前に入れさせないんだよ―――と。握手をしたくなるほどの正論であり、その通りである。しかし、その十分に練られた考えを基にした語りが、まるでドグマのように感じられたのも正直なところだ。

これらの写真を通じて観るカタストロフには、おそらく、物語への回収を断固として拒否するものがある。


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