Sightsong

自縄自縛日記

仲野麻紀『旅する音楽』、Ky『心地よい絶望』

2017-10-19 07:18:13 | アヴァンギャルド・ジャズ

仲野麻紀『旅する音楽』(せりか書房、2016年)を読んでみたところなかなか面白かった。日本、ブルキナファソ、レバノン、フランス、モロッコ、エジプト、まあさまざまな場所に旅をして音楽を創り出している人である。

それはどうやら、ジャズと「ワールドミュージック」とのコミュニケーションというようなものではない。「ワールドミュージック」という呼び方自体がコアと外部とを暗に示唆しているのであり、著者の仲野さんが実践し語る音楽はその権力構造の解体を企図しているようにみえる。楽譜としての記録とはなにか、練習とはなにか、場所とは音楽にとってなにか、理想的に音が響くハコでの音楽はほんとうに理想的なのか、他者と文化を共有することは可能なのか、そのような問いが投げかけられている。

仲野麻紀とフランス人ウード奏者ヤン・ピタールとのユニット「Ky」による『心地よい絶望』(Ottava Records、2016年)もまた妙に逸脱的で面白い。前半がエリック・サティの曲、後半がオリジナルやアラブなどの伝統音楽なのだが、雰囲気はつながっている。『旅する音楽』によれば、ウードの音は実際にナマで体感すべきものであるという。

「ウードという楽器が鳴る時、その共鳴胴となる半卵形のボディーは、同じ空間にいる者にしか響かない。録音技術が発達し、あらゆる機材を駆使して音環境を整えたとしても、そのわずかな震えはわたしたちのからだの中ではたして共振するだろうか。」

ところで、越境する人にとってのサティとはどのようなものだろう。

●エリック・サティ
安田芙充央『Erik Satie / Musique D'Entracte』(2016年)
ウィーン・アート・オーケストラ『エリック・サティのミニマリズム』(1983、84年)