「負けない将棋」ここにあり! 永瀬拓矢vs渡辺明 2018年 第43期棋王戦 第1局

2020年03月15日 | 将棋・名局

 前回(→こちら)に続いて、永瀬拓矢叡王・王座のお話。

 挑戦者も決まり、もうすぐ叡王戦が開幕するが、そこでチャンピオンとして君臨する永瀬拓矢といえば「負けない将棋」である。

 デビュー当時から、期待の若手として注目されていた永瀬は、その実力とともに、独特ともいえる受けの力でも話題を集めていた。

 ねばり強さに加えて、ちょっとでもスキを見せたら、その瞬間から「根絶やし」をねらってくるS気もあり、プロには、なかなかいないタイプの棋士だったのだ。
 
 アニキ分である鈴木大介九段はその独特に進化した将棋を

 

 「悪いクセがついている」

 

 手厳しく評したが、それが永瀬の個性として際立っていたことも、また一面の事実だろう。

 その「負けない」ところが存分に発揮されたのが、2年前のこの将棋。

 2018年、第43期棋王戦5番勝負の第1局

 渡辺明棋王と、永瀬拓矢七段の一戦。

 後手の永瀬が、現代風な雁木に組むと、先手の渡辺はオールドタイプの矢倉を選択し、見事な作戦勝ちを収める。

 

 

 中盤戦の入口。

 金銀4枚の堅陣にくわえて、持ち歩は4枚もあり、あとは▲46歩から▲45歩とか。

 ▲22歩の手筋に、▲46とか▲71に打つ筋をからめて、先手から、どんどん攻めがつながりそうな局面。

 このままでは勝負所もなく、やられてしまいそうだが、次の手が「永瀬流」の一着だった。

 

 

 

 

 △34歩と打ったのが、すごい手。

 意味としては、▲33歩、△同桂、▲34歩、△同銀、▲71角のような攻めを受けているわけだが、本当にただ受けただけである。

 他になんの主張もない形で、ふつうは指せないどころか、昭和の棋士なら

 

 「破門だ!」

 

 一喝されそうなほど元気がない手だが、ここで自滅に走らないのが永瀬の強さか。

 渡辺は▲46歩と味よく突いて、△39角、▲38飛、△84角成▲45歩と、自然に駒をぶつけて行く。

 

 

 これで、どう見たって先手優勢である。

 それを承知での△34歩というのが、なんとも、すさまじい発想ではないか。

 そこからも先手は右桂を活用し、お手本のように攻め駒をさばいていく。

 

 

 

 ▲71角と打った局面など、こんなにうまくいっていいのかと、口笛でも吹きたくなるところで、実際、渡辺自身もそう感じていた。

 両取りを受けるには△62飛しかなく、▲同角成、△同金、▲82飛が、またもの両取り。

 どちらも取られないようにするには、△72桂しかないが、受け一方で、いかにもつらい。

 さらに▲63歩、△61金、▲81飛成とカサにかかられて、ますます防戦が困難に。

 

 

 

 △52金▲72竜と取った手が、また金取りで、なおも逃げれば▲62歩成と、土砂崩れが止まらない。

 △71桂とヤケクソのような受けにも、▲62歩成、△同金、▲71竜で、どっちにしても駒をボロボロ取られてしまう。

 あまりの大差に、棋界最強のねばり強さで鳴らす木村一基九段ですら、

 

 「投了してもおかしくない」

 

 指している渡辺棋王も

 

「タイトル戦で全駒になっていいのか」

 

 ところが、おそろしいことに、ここからこの将棋は永瀬の超人的ながんばりによって、とんでもない展開を見せることになるのだ。

 

 

 (続く→こちら

 

 

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