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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「特捜部Q ―キジ殺し―」(著:ユッシ・エーズラ・オールスン/訳:吉田 薫・福原 美穂子)

2015-01-16 00:09:50 | 【書物】1点集中型
 「檻の中の女」に続く「特捜部Q」シリーズ第2作。読みたいと思いながらも結局1年以上経ってしまっていた(汗)。
 スーツケースを引きずる怪しい女と、彼女を追っているらしい、後ろ暗さ丸見えのセレブの男たち。20年前、高校生だった彼らと彼女が踏み出した暗い嗜虐の道と、現在の彼らが突き進む絵に描いたような頽廃的享楽の道、彼女が潜む世の中の裏通りどころか地下道が交互に描かれながら、最初は影も形も見えなかったカールが追う20年前のある事件との接点が少しずつ明らかにされていく。

 理由なき暴力に手を染めどんどんエスカレートしていく彼らと彼女の行動は、発端が20年前という設定であるものの、まさに今この時代に注目されるようになってきたタイプの犯罪を彷彿とさせるものである。彼らと袂を分かち、果ては復讐の対象として捉えるようになった彼女――キミーが胸に抱く復讐の理由とは、しかし自らが暴力に加わっていたことに対する罪の意識ではなかったということも。
 彼らが自分たちの快楽と保身しか頭になかったとすれば、キミーもまた自己の憎しみしか頭になかった。この人々の物語の結末には、憐れみもやるせなさもやるせなさも感じられない。残るのはその罪に対する憤りと、理解しがたいという感情だけだ。前作のミレーデに対しての犯人の仕打ちもそうだったけど、今回のキミーと男たちの行状も精神的にエグい話だらけで、解決しても気分爽快になるものでは全くない。澱んだ後味ばかりが残る。これが「Q」の事件のカラーってことなのかなー。うう。

 とはいえ、そんな事件の凄惨さや異常さをそれこそカールやアサド、今回からは彼らに加えてローセの、一種天然風味の軽妙さを持つ個性が救っている。カールの同居人たちも含め、カールの周囲の人々があまりにも凸凹していて、振り回されっぱなしのカールを見ているのが読者として楽しいのも事実なのである。
 今回は、アサドにやはり何かしらの謎があることも見せられたので、それがどこでどう効果的に明かされるのかも今後の楽しみになった。それにもちろん、ハーディをわが家に迎えてカールがどう変わっていくのか、あるいはハーディがどう変わっていくのか。アンカーの死に隠された陰謀らしきものは? って、そんな思わせぶりな「?」ばっかりまき散らされたら、読者としては食いつかずにはいられないよねぇ(笑)。まあ、それも「Q」の面々の愛すべき人となりと、苦笑を誘われつつも報われるように祈らずにいられないカールの暮らしぶりあってこそだけど。


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