あの大学時代の、馬鹿なオレ。その3【 イコマ 】

2017-09-04 05:44:18 | 馬鹿なオレ、
1年坊主、奴隷のザックには、
人参、玉ねぎ、じゃがいも、そして、りんご、オレンジなどの果物。
重い生(なま)のままの食糧に、
塩辛く炒めた豚のバラ肉をビニール袋に詰めたもの。

水を入れた2リットルのポリタンク「 ポリタン 」が、ふたつ、
昼食用の炊込みご飯の詰まった飯盒( はんごう )、
背中に、鉄の使い込まれた、
マンホールの蓋くらいある大きさの鍋をくくり付け、
そして、わさび色のテントに、鉄のポール。

加えて、
全員分のアルミの食器「 バイル 」と、箸「 武器(ぶき) 」、
登山に立ち向かうための、栄養補給の重要な道具で、箸を武器、と呼んだ。

ダンボールで、サック状にカバーした、包丁に、おたま。

そして、
自分の着替えや、合羽、寝袋、寝袋の下にひくウレタンマット、
ヘッドライト、非常食などの装備。

これが、1年坊主、奴隷の完全装備だ。

当然、ザックは、オレの体重より重くなり、
手で持ち上げて、背負うことは出来ない。

ザックを地面に置き、肩ベルトに、腕を通して、
亀が裏返しに転(こ)けた様子を思い浮かべ、
そこから、大きく足を振り上げ、
勢い、降ろす力を利用して、オレは、起き上がる。

毎回、休憩の度に、オレは、この亀の儀式を繰り返す。

道中は、ザックが重いため、腰を前傾姿勢に曲げ、
周囲の景色を楽しむ余裕もなく、
オレの視線は、オレの汗で、確実に、濡れて行くであろう、
その先の、山道を眺めているばかりだ。

苦行僧か⁉︎

そう、苦行僧に、与えらた、もうひとつの試練は、
道中、歌を唄うことだ。

楽しくないんだって、負担なんだって、
歌を唄う事なんて、
不合理なんだよ。

ピクニックじゃないんだから。
ハイキングじゃないんだから。

山を歩く行為は、同じかも知れないが、
ちゃんと、道ある道を歩くんじゃなくて、
藪を、漕ぎ、
荷物の重さが、全然、違うんだよ、
わかってんのか、伝統という重みさん、よ。

一歩、一歩、足を前に出すのが、
やっとなのに。

自然の山の中、
アカペラで歌を唄う、似非(えせ)の歌手の役目は、
平民と奴隷です。

オレの十八番は、
憂歌団『 イコマ 』、
お前らぁ、オレが唄う事で、
初めて、知ったろ、この歌を、
切ない色街の歌なんだよぉ。
とにかく、歌が、短いンだよ。

急な坂道になり、唄う事が、キツイと、
「えっさぁ〜、こりゃさぁ〜」の掛け声に、切り替わる。

どちらにしても、
声の発生作業は、休まない。

オレは、よく、だんまりを決め込み、
平民から、罵声を浴び、
それでも、沈黙を続ける、と、
奴らは、「 ちぇッ 」と、舌打ちして、
代わりに歌ってくれた。
優しいねぇ…、
神様、貴族の眼が、怖ぇのか?
違った、耳が、怖ぇのかぁ。


つづく、