習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

野中柊『恋人たち』

2008-09-11 22:23:28 | その他
 野中柊を読んで、初めて面白いと思った。もちろん、今までもつまらないと思ったわけではない。だが、何度か読んでみてその度になんだか違うなぁ、という感想を持ってきた。それがなんなのかはよく分らない。フィーリングが合わないのか、なんて、ね。そういうわけで久しぶりだった。そして、今回はすっきり入ってきた。それって、一体何なのだろうか。
 
2組の男女の交流を通して彼らのそれぞれの生き方が描かれていく。絵を描くという行為を交流点として、全く知らない同士だった4人が出会う。ドラマはそんな4人の物語ではない。あくまでも二人ずつの別の物語として描かれていく。もちろん交流する場面もあるが、そこを基点としてストーリーが展開していくことはない。あくまでも別々のカップルたちの物語だ。そこがおもしろい。
 
 40代の雑誌編集者の男と、彼に見出された20代のイラストレーターの女性。彼女は仕事を通して、彼と出会い、彼女が彼のところに強引に転がり込んでいくことで二人の関係が始まった。彼は優しくて、彼女を丸ごと包み込んでくれる。彼は若い彼女がいつ自分のもとを離れて行ってもいい、と思っている。保護者のように愛してくれる。そんな彼が彼女はほんの少しもどかしい。彼がまだ、昔の恋人を忘れられないのではないか、と疑う。だが、何も言わない。

 もう一組。20代後半の二人。二人はとても理想的なカップルに見える。しかし、彼女は事故で死んだ彼の友人で、かっての自分の恋人のことが忘れられない。その事故の時に彼女は失明している。二人の間には彼らに共通の友人の影がつきまとう。

 とてもシンプルなお話だ。イラストレーターの女性がその失明した女性をモデルにして絵を描く。彼らの接点は最初はこの行為の中だけにある。それぞれが痛みを抱えながらも、静かにお互いの中にある愛を育む。それだけのお話がなんだかとても素敵に描かれていく。ゆっくり流れる時間の中でお互いの気持ちが熟成されていく。それが心地よい。

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