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映画・演劇のレビュー

重松清『季節風・春 ツバメ記念日』

2008-09-11 21:48:25 | その他
 重松清に嵌ってしまった。最近の彼の小説は、なんだかとても心に沁みる。『カシオペアの丘』を読破したくらいから、彼への評価が変わってきた。もともと悪くはないのだが、なんだかあざとくて、好きになれなかった。なんだか、なんでも俺はわかってるからな、なんて感じのスタンスが鼻について、嘘くさいオヤジだ、と思っていた。

 だが、ある一線を越えたら(それが僕にとっては『カシオペアの丘』だった)全肯定状態になってしまったのだ。今では、彼がやりたいようにやってくれるのなら、それでいい、なんて思ってしまう。長編である『カシオペアの丘』は前半で息切れしていた。なのに強引に後半に突き進むうちに彼の中で何かが変わってきたように思う。小説としては決して出来はよくない。だが、あの長さを最後までいつもの短編と同じスタンスで描ききったことの快感。やり遂げたという満足感が漲る小説だった。

 『季節風・春』は、この夏に読んだ『季節風・夏』の前に出版されたシリーズ第1作。これはタイトル通り四季をテーマにした短編連作。続いて秋、冬も出版されるはずだ。正直言うと、『夏』のほうが断然いい。ずっとインパクトも強く、すてきだった。

 『春』はどうしても出会いと別れがテーマになる。重松清が取り上げると、当然別れの話が多くなる。そして、ちょっとパターン化してしまう。各エピソードはなんだか綺麗に完結しすぎていて少しつまらない。話の切り口が単調になりすぎているのだ。

 今、ちょうど授業で彼の『タオル』という短編をしている。『小学5年生』所収の作品だ。これも「別れ」がテーマの短編だ。祖父の死を素直に受け止めれない少年の戸惑いを描いている。

 それにしてもなんでこれなのか? いくらでも彼の短編ならいい話があるのに。もちろんこれが駄目だというわけではない。だが、最初の作品としてこれはちょっと、と思った。もっとストレートに伝わる作品を選んで欲しい。

 と、いうか、重松清でどんな授業をしろ、というんだろうか。高校生なら、一読してそれだけで充分だと思う。なんだか、生徒をバカにしたような選定に思える。まぁ、これは余談でしたが。

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