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映画・演劇のレビュー

遊気舎『夏至を待つ』

2023-06-19 13:22:00 | 演劇

太宰治が戦時中に執筆した短編『待つ』へのオマージュ。(昔、授業でしたことがある。高校の教科書にも取り上げられた作品)久保田浩書き下ろし新作だ。そして、五十音シリーズのなんと第9作である。(凄い! ここまでくると本気で50音する気が伝わる)

10年前に亡くなった祖母(魔瑠)の家にやってきた孫たち。今では住む人もなく荒れ果てた家。生前の祖母は最期までダムの下に沈んでしまった村でたったひとり暮らしていた。

彼女たちは生前の祖母に会いに行くことは叶わなかった。自分のことで精一杯で行かなきゃとは思うけど、延び延びにして、気がついた時には亡くなっていた。10年経ち、何故か、思い立ってやってきた。三姉妹揃って。3人ばかりではない。ほかの孫たちもやってくる。誰もいないこのあばら家には祖母の幽霊が住んでいる。その日、嵐がやってくる。大音響が包み込み、暗転。

ラストのまさかの展開が凄い。エピローグが始まってやがて気がつく。死者たちと生き残っている家族が出会う。あれは嵐の前の静けさ、だったのか、と。10年後、さらに10年後。ふたつの時間が重なり合う。さらには芝居では描かれない10年前。祖母が死んだ時を想起させる。静かな芝居は亡くなった祖母と、ほとんどがダムの底に沈んで無くなった村へのレクイエムだ。記憶の中にしか存在しない大切な想い。それを愛おしむ。

久保田さんはこの重い芝居をさらりとしたタッチで淡々と見せる。もちろん笑いはない。だけど、暗い芝居にはならない。


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