温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

発哺温泉 西発哺温泉ホテル

2015年03月29日 | 長野県
 
冬季はスキー客、夏季はスポーツ合宿のグループなど、四季を通じて観光客で賑わう信州の志賀高原。一帯の山々は火山であるため、温泉も多く点在しているわけですが、今回は西館山の山腹に位置する発哺(ほっぽ)温泉を訪れました。発哺温泉エリアはスキー場としての色彩が強く、夏季になるとかなり閑散としてしまうのですが、「西発哺温泉ホテル」は通年営業しており、夏でも立ち寄り入浴を受け入れてくれるありがたい施設です。なお、前回記事までと同じく昨年(2014年)夏の訪問記であり、多少鮮度に欠ける内容ですので、あしからず。

休業中のホテルが目立つ発哺温泉の中心部から更に奥へ入り、「本当にこの道で良いのか」と不安を覚えてしまう狭隘な未舗装路を進んでゆくと、傾斜地を切り開いて設けられた駐車場に行き当たり、その奥にホテルの建物が姿をのぞかせていました。看板によればここの標高は1600mとのこと。訪問した日の東京はうだるような猛暑に見舞われていましたが、冷涼な当地は地獄釜のような暑さとは無縁であり、立ち込める濃霧のために寧ろ若干肌寒さすら覚えました。


 
駐車場周辺で群生をなすルビナスを左に見ながら、駐車場の奥へ伸びるスロープを下って玄関へ。玄関前に置かれた園芸用コンテナでは、「高山植物の女王」コマクサが育てられていました。
フロントで日帰り入浴をお願いしますと、しゃがれ声のおじさんが快く対応してくださいました。


 
左右に大きなロビーの展望窓からは、晴れていれば白馬岳から奥穂高岳まで北アルプスの山稜が一望できるんだそうですが、あいにくこの日は濃い霧が視界を遮っており、北アルプスどころか、目の前の木立ですら霞んでしまうほど。


 
エレベータか階段で1フロア下り、「火地獄」と染め抜かれた暖簾を潜った先に浴室があります。「火地獄」とはこちらのホテルに引かれている温泉の源泉名なんだとか。浴室入口にロッカーがあるので、そこへ貴重品を預けて脱衣室へ。男女に分かれた浴室は中央の仕切りを挟んでシンメトリな構造になっており、男湯の脱衣室は右手に棚と籠が並び、左手に洗面台やマッサージチェアが備え付けられていました。扇風機も用意されているので、風呂あがりのクールダウン対策もばっちりです。浴室へ出入りする戸の脇に掲示された張り紙には「浴槽の中の沈殿物は…温泉の湯花です」と説明されていました。この手の説明書きは他の多くの温泉施設でも見られますが、こちらのお風呂の場合は殊更強調して言及する理由があるんですね。詳しくはのちほど。


 
お風呂はタイル張りの内湯のみですが、山裾を見下ろす眺望が良い方角に対して大きな窓が開かれており、床面積が広くて天井も高いため、開放感はまずまずです。上階のロビーと同じく、晴れていればこの浴室からも北アルプスが眺望できたはずですが、この日は濃霧でただただ白く煙るだけ。残念です…。室内には大きな浴槽がひとつ据えられています。浴槽の隅には人の背丈ほどある湯もみ板が立てかけられていました。


 
洗い場にはシャワー付きカランが9基一列に並んでおり、この反対側には立って使うシャワーが1基取り付けられています。温泉に含まれる硫黄の影響により、各水栓は硫化して黒く変色していました。


 
10~11人同時に入れそうなキャパを有する浴槽は、縁に赤い御影石が用いられ、槽内はタイル貼りです。窓に近い側の底面には気泡発生装置と思しきステンレス製の設備が嵌めこまれているのですが、訪問時には稼働しておらず、室内に響いていたのは、後述する湯口からお湯が落とされる音のみでした。お湯はほぼ無色透明ですが、僅かに緑色や白色を帯びて微濁しているようにも見えます。湯船を満たしたお湯は、脱衣室側にある切り欠けを流れて床へ溢れ出ていたのですが、投入量に対して溢湯量が少なかったので、底にたくさんあけられている目皿から一部排湯されていたのかもしれません。なお館内表示によれば、通常は源泉掛け流しの湯使いなのですが、一日5回、10分間ずつ循環装置を駆動させ、その際に塩素系薬剤も投入するとのこと。入室時にはカルキの臭いがちょっと気になったのですが、ちょうど1日5回のタイミングにバッティングしちゃったのかな(それゆえ、オーバーフロー量が少なかったのかな)。


 
 
1日5回10分間の循環を実施する理由は、浴槽内の湯の華を除去するため。脱衣室でもその旨が説明されていましたが、本当にそんなに多いのかと半信半疑で実際に湯船に入ってみますと、底に沈殿していた大量の湯の華が一気に舞い上がり、湯中では湯の華まみれになって、体じゅうの毛に絡みついてきました。浴槽のお湯を桶でサッと掬うだけでも、容易にキャッチできるほど大量に浮遊しており、これに伴い湯船も若干濁ってみえます。消しゴムのカスのような湯の華は、大小様々なサイズがあり、白色・灰白色・薄い茶色など、色合いも多様。
湯口の蓋をあけると、箱状の湯枡にも白い湯の華がたくさん溜まっており、そればかりか、中央のパイプからはお湯と一緒にどんどん湯の華が上がっていました。私のような温泉バカは、湯の華が多ければ多いほど欣喜しちゃいますが、お客さんによっては浮遊物を忌避する方もいらっしゃいますので、定期的に濾し取らないといけないのでしょう。そんな措置を行っているにもかかわらず、浴槽内では湯の華がたっぷり沈殿しているのですから、こまめに濾し取らなければ、分厚く堆積しちゃうのかもしれません。温泉の管理って本当に大変ですね。

こちらの温泉は、源泉名こそ火地獄3号という仰々しいネーミングですが、その実は蒸気造成泉であり、成分総計126.7mg/kgというかなり薄いタイプのお湯です。でも、造成泉だからと言って侮るなかれ、お湯を口に含むと明礬的な酸味がほのかに得られる他、軟式テニスボールのゴムみたいなイオウ由来の味と匂い、そして弱いながらも焦げ系の匂いが感じられます。5.8mgの総硫黄を有し、遊離硫化水素が5.2mgありますので、薄いお湯でありながらしっかりとしたイオウ感が得られるのですね。
やや熱めの湯加減で加水は無いため、人によっては上述の湯もみ板を使って、ちょっと冷ましたくなるかもしれません。スルスル感と少々の引っ掛かり浴感が混在して肌に伝わり、熱いながらも湯上がりはサッパリします。いかにも蒸気造成泉らしいあっさりした体感と、分析表の数値からは想像が及ばない豊かな個性、そして大量に舞う湯の華という特徴を併せ持った、造成泉の奥深さを改めて認識させてくれる面白いお湯でした。


火地獄3号
単純硫黄温泉(硫化水素型) 54.3℃ pH6.1 蒸気造成泉 溶存物質75.5mg/kg 成分総計126.7mg/kg
Na+:2.6mg(17.13mval%), Mg++:1.1mg(14.02mval%), Ca++:8.5mg(65.41mval%),
HS-:0.6mg, SO4--:8.4mg(25.22mval%), HCO3-:28.4mg(69.73mval%),
H2SiO3:24.3mg, CO2:46.0mg, H2S:5.2mg,
加水・加温なし、
1日5回10分ずつ湯華除去のため循環(循環時に塩素系薬剤で消毒)、それ以外は掛け流し。

長野県下高井郡山ノ内町発哺温泉  地図
0269-34-2634
ホームページ

日帰り入浴12:00~20:00
700円(フェイスタオル付き)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★

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