※2015年11月で閉館してしまいました。
渡島半島の南北に伸びる脊梁には秘湯然とした温泉が点在していますが、この地域で脊梁と平行して南北に貫く道は、海沿いの国道以外に存在しておらず、当地の各温泉をハシゴするには、一旦海岸部まで出てから南北方向を移動し、再び山へ向かって櫛状に伸びる道を進む他ありません。でもそんな面倒を踏んでも訪れたくなるほど、この南北ライン沿いには名湯が揃っているんですね。今回取り上げる桜野温泉「熊嶺荘(くまねそう)」もそうした温泉の典型例であり、野田生駅付近から山に向かって東進した先の山間にポツンと佇む、秘湯感溢れる一軒宿であります。今回は日帰り入浴で伺いました。
国道5号の分岐から道道573号線を12~3kmほど走ったところで左折し、御料橋という橋で野田追川を渡った対岸にお宿が佇んでいました。周囲には川音と原生林が広がるばかりで集落も何もなく、私の携帯(au)はおもいっきり圏外です。山間の一軒宿といえば、古く鄙びた建物を思い浮かべますが、こちらは決してそんな様相ではなく、ペンションやロッジといった横文字が似合いそうな小洒落た佇まいで、玄関ホール左手の食堂は木のぬくもりが伝わる洋風の空間が広がっています。玄関で声を掛けて日帰り入浴をお願いしますと、宿の方は快く受け入れてくださいました。
食堂と浴室入口を仕切るパーテーションには、マスのホルマリン漬けが陳列されていました。きっと目の前の清流で釣り上げられたものなのでしょうね。またその近くには額に納められた数葉の写真が飾られているのですが、これは先ほど私が渡ってきた御料橋が平成11年の水害で越水してしまった様子を撮ったもので、普段は潤いのある美しい景色を生み出している清流も、大雨によって恐ろしい牙を剥き出しにすることを教えてくれます。
アルミの扉を開けて脱衣室に入りますと、室内に据え付けられているシャワー用のボイラーと思しき機器からは、何やらゴソゴソと怪しい音が聞こえてくるのですが・・・
その音の発生源は機器上に置かれた水槽でして、中では大きなカメが自由を求めて2本立ちし、前脚で水槽の側面をもがいていたため、ゴソゴソという音を発していたのでした。しかしカメくんは無駄な抵抗と悟ったか、やがて2本立ちを止め、大人しくなったのでした。そんなカメを見つめていたら、つい感傷的になり、同情の念を寄せたくなった私。相当心が疲れているのでしょうか。早くお湯に浸かって癒やされなければ!
川側にガラス窓と浴槽が配置されている浴室。洗い場にはシャワー付き混合水栓が3基設置されています。
女湯との仕切りにはこのような扉が設けられており、女湯側からこちらへ移動できるようになっているのですが、これは後述する露天風呂の入口が男湯側にあるため、露天を利用したい女性客はこの扉を通って男湯の内湯を通過し、露天へ向かうことになるのでしょう(どうやら夜に女性専用時間が設けられていたり、あるいは他にお客さんがいない時に女性客も利用できる、といった使われ方がなされているようです)。
この浴室はとにかく床や浴槽周りなど、温泉と触れる箇所が石灰の付着・沈着によってスゴイことになっており、そのボコボコを目にした私は狂喜乱舞、他客の目が無いのをいいことに、頻りに表面を撫で続けてしまいました。浴槽はおよそ7人サイズですが、縁に配されている岩や槽内に貼られているタイルにはビッシリとアイボリー色の石灰分がこびりつき、タイルの目地がほとんど埋まっちゃっています。なお源泉は屋外より塩ビ管によって槽内の底面近くで吐出されており、源泉温度が高いためか、投入量はちょっと絞り気味でした。
浴槽の湯面ライン付近には石灰分によってサルノコシカケを真っ直ぐ伸ばしたような大きな庇が形成されており、底面(特に窓下や左右両端)にも粉状の沈殿がたくさん溜まっています。お湯を動かすとこの粉状の沈殿が撹拌されて湯中へ浮遊しますが、私が窓を背にして湯船に入ったところ、真下に沈んでいた沈殿が一気に且つ大量に舞い上がり、無数の浮遊物が背中に当たってくすぐったくなってしまいました。日本に温泉余多あれども、くすぐったくなる温泉は他に例を見ないのでは。
槽内のステップにも石灰分がボコボコにこびりついており、まるで腸の内壁を見ているかのような模様が表面を覆っています。
加水用の水栓は析出にすっかり包囲され、辛うじて上の可動部を突き出しているばかりです。また浴槽のお湯が溢れ出るオーバーフローの流路には、石灰分によって自然堤防がつくりだされていました。一般的に、湯船の溢れ出しは、自然に任せて床を流れてゆくか、あるいは人為的な流路へ導くかのいずれかですが、お湯が自分で堤防を築いて流路を作り出している温泉なんて、かなり珍しいかと思います。他所へ溢れることなく自分から真っ直ぐ排水口へ流れているんですから、ある意味でお行儀が良いとも言え、温泉を擬人化して表現するなら、普段温泉くんは配管にスケールを詰まらせたり、槽内を沈殿だらけにしてオーナーさんの手を焼かせているので、せめてもの償いとして、自ら進んでお行儀よく排水口へ向かっているのかもしれませんね。なお槽内には循環用の設備が無く、加水や加温も行われていないようですから、湯使いは完全放流式であると推測されます。
露天風呂は野田追川に面しており、渓流と対岸の山々の紅葉が視界一杯に広がり、御料橋以外の人工物は一切目に入ってきません。北海道の大自然の美しさを目一杯堪能できる素晴らしいロケーションです。浴槽の上には東屋の屋根が掛けられているので、多少の雨でも大丈夫。訪問した時には投入量が内湯以上に少なく、35℃にも届かないほどぬるかったので、あまりじっくり入れなかったのですが、湯加減が上手く調整されていれば、最高の湯浴みが楽しめたことでしょう。
さてお湯に関するインプレッションですが、見た目は若干暗い浅葱色を帯びて薄く濁っており、甘塩味と出汁味に、石膏味と石灰味がミックスされた味覚を有し、匂いは微弱ながらも土類臭が感じられました。入浴客を圧倒させるほど浴室中にコンモリと石灰分を沈着させているわりには、味や匂いはあまり自己主張していないのですが、しかしながら口に含むと重い味が広がり、口腔には表現の難しい違和感が残りましたので、その重さや違和感こそ、あの独特な景観を生み出しているカルシウムの仕業なのでしょう。分析表上での泉質名はナトリウム-塩化物泉(食塩泉)ですが、実質的には重炭酸土類泉のような性質がよく現れているかと思われます。そういえば、この手のお湯は、長万部町の二股ラジウム温泉や、旧熊石町の見市温泉など、こちらの温泉と同じく渡島半島の脊梁部で見られますね。大自然に抱かれながら、いかにも道南らしい濃いお湯を堪能できる、素敵な温泉でした。
ナトリウム-塩化物温泉 55.5℃ pH7.0 湧出量表記なし(動力揚湯) 溶存物質3.935g/kg 成分総計4.067g/kg
Na+:1105mg(79.61mval%), Mg++:51.6mg, Ca++:113.5mg(9.38mval%),
Cl-:1645mg(78.20mval%), SO4--:120.6mg(4.23mval%), HCO3-:631.8mg(17.45mval%),
H2SiO3:103.8mg, HBO2:69.2mg, CO2:132.1mg,
北海道二海郡八雲町わらび野348 地図
0137-66-2564
日帰り入浴時間9:00~21:00
500円
シャンプー類・ドライヤーあり、ロッカー無し(帳場預かり?)
私の好み:★★+0.5
渡島半島の南北に伸びる脊梁には秘湯然とした温泉が点在していますが、この地域で脊梁と平行して南北に貫く道は、海沿いの国道以外に存在しておらず、当地の各温泉をハシゴするには、一旦海岸部まで出てから南北方向を移動し、再び山へ向かって櫛状に伸びる道を進む他ありません。でもそんな面倒を踏んでも訪れたくなるほど、この南北ライン沿いには名湯が揃っているんですね。今回取り上げる桜野温泉「熊嶺荘(くまねそう)」もそうした温泉の典型例であり、野田生駅付近から山に向かって東進した先の山間にポツンと佇む、秘湯感溢れる一軒宿であります。今回は日帰り入浴で伺いました。
国道5号の分岐から道道573号線を12~3kmほど走ったところで左折し、御料橋という橋で野田追川を渡った対岸にお宿が佇んでいました。周囲には川音と原生林が広がるばかりで集落も何もなく、私の携帯(au)はおもいっきり圏外です。山間の一軒宿といえば、古く鄙びた建物を思い浮かべますが、こちらは決してそんな様相ではなく、ペンションやロッジといった横文字が似合いそうな小洒落た佇まいで、玄関ホール左手の食堂は木のぬくもりが伝わる洋風の空間が広がっています。玄関で声を掛けて日帰り入浴をお願いしますと、宿の方は快く受け入れてくださいました。
食堂と浴室入口を仕切るパーテーションには、マスのホルマリン漬けが陳列されていました。きっと目の前の清流で釣り上げられたものなのでしょうね。またその近くには額に納められた数葉の写真が飾られているのですが、これは先ほど私が渡ってきた御料橋が平成11年の水害で越水してしまった様子を撮ったもので、普段は潤いのある美しい景色を生み出している清流も、大雨によって恐ろしい牙を剥き出しにすることを教えてくれます。
アルミの扉を開けて脱衣室に入りますと、室内に据え付けられているシャワー用のボイラーと思しき機器からは、何やらゴソゴソと怪しい音が聞こえてくるのですが・・・
その音の発生源は機器上に置かれた水槽でして、中では大きなカメが自由を求めて2本立ちし、前脚で水槽の側面をもがいていたため、ゴソゴソという音を発していたのでした。しかしカメくんは無駄な抵抗と悟ったか、やがて2本立ちを止め、大人しくなったのでした。そんなカメを見つめていたら、つい感傷的になり、同情の念を寄せたくなった私。相当心が疲れているのでしょうか。早くお湯に浸かって癒やされなければ!
川側にガラス窓と浴槽が配置されている浴室。洗い場にはシャワー付き混合水栓が3基設置されています。
女湯との仕切りにはこのような扉が設けられており、女湯側からこちらへ移動できるようになっているのですが、これは後述する露天風呂の入口が男湯側にあるため、露天を利用したい女性客はこの扉を通って男湯の内湯を通過し、露天へ向かうことになるのでしょう(どうやら夜に女性専用時間が設けられていたり、あるいは他にお客さんがいない時に女性客も利用できる、といった使われ方がなされているようです)。
この浴室はとにかく床や浴槽周りなど、温泉と触れる箇所が石灰の付着・沈着によってスゴイことになっており、そのボコボコを目にした私は狂喜乱舞、他客の目が無いのをいいことに、頻りに表面を撫で続けてしまいました。浴槽はおよそ7人サイズですが、縁に配されている岩や槽内に貼られているタイルにはビッシリとアイボリー色の石灰分がこびりつき、タイルの目地がほとんど埋まっちゃっています。なお源泉は屋外より塩ビ管によって槽内の底面近くで吐出されており、源泉温度が高いためか、投入量はちょっと絞り気味でした。
浴槽の湯面ライン付近には石灰分によってサルノコシカケを真っ直ぐ伸ばしたような大きな庇が形成されており、底面(特に窓下や左右両端)にも粉状の沈殿がたくさん溜まっています。お湯を動かすとこの粉状の沈殿が撹拌されて湯中へ浮遊しますが、私が窓を背にして湯船に入ったところ、真下に沈んでいた沈殿が一気に且つ大量に舞い上がり、無数の浮遊物が背中に当たってくすぐったくなってしまいました。日本に温泉余多あれども、くすぐったくなる温泉は他に例を見ないのでは。
槽内のステップにも石灰分がボコボコにこびりついており、まるで腸の内壁を見ているかのような模様が表面を覆っています。
加水用の水栓は析出にすっかり包囲され、辛うじて上の可動部を突き出しているばかりです。また浴槽のお湯が溢れ出るオーバーフローの流路には、石灰分によって自然堤防がつくりだされていました。一般的に、湯船の溢れ出しは、自然に任せて床を流れてゆくか、あるいは人為的な流路へ導くかのいずれかですが、お湯が自分で堤防を築いて流路を作り出している温泉なんて、かなり珍しいかと思います。他所へ溢れることなく自分から真っ直ぐ排水口へ流れているんですから、ある意味でお行儀が良いとも言え、温泉を擬人化して表現するなら、普段温泉くんは配管にスケールを詰まらせたり、槽内を沈殿だらけにしてオーナーさんの手を焼かせているので、せめてもの償いとして、自ら進んでお行儀よく排水口へ向かっているのかもしれませんね。なお槽内には循環用の設備が無く、加水や加温も行われていないようですから、湯使いは完全放流式であると推測されます。
露天風呂は野田追川に面しており、渓流と対岸の山々の紅葉が視界一杯に広がり、御料橋以外の人工物は一切目に入ってきません。北海道の大自然の美しさを目一杯堪能できる素晴らしいロケーションです。浴槽の上には東屋の屋根が掛けられているので、多少の雨でも大丈夫。訪問した時には投入量が内湯以上に少なく、35℃にも届かないほどぬるかったので、あまりじっくり入れなかったのですが、湯加減が上手く調整されていれば、最高の湯浴みが楽しめたことでしょう。
さてお湯に関するインプレッションですが、見た目は若干暗い浅葱色を帯びて薄く濁っており、甘塩味と出汁味に、石膏味と石灰味がミックスされた味覚を有し、匂いは微弱ながらも土類臭が感じられました。入浴客を圧倒させるほど浴室中にコンモリと石灰分を沈着させているわりには、味や匂いはあまり自己主張していないのですが、しかしながら口に含むと重い味が広がり、口腔には表現の難しい違和感が残りましたので、その重さや違和感こそ、あの独特な景観を生み出しているカルシウムの仕業なのでしょう。分析表上での泉質名はナトリウム-塩化物泉(食塩泉)ですが、実質的には重炭酸土類泉のような性質がよく現れているかと思われます。そういえば、この手のお湯は、長万部町の二股ラジウム温泉や、旧熊石町の見市温泉など、こちらの温泉と同じく渡島半島の脊梁部で見られますね。大自然に抱かれながら、いかにも道南らしい濃いお湯を堪能できる、素敵な温泉でした。
ナトリウム-塩化物温泉 55.5℃ pH7.0 湧出量表記なし(動力揚湯) 溶存物質3.935g/kg 成分総計4.067g/kg
Na+:1105mg(79.61mval%), Mg++:51.6mg, Ca++:113.5mg(9.38mval%),
Cl-:1645mg(78.20mval%), SO4--:120.6mg(4.23mval%), HCO3-:631.8mg(17.45mval%),
H2SiO3:103.8mg, HBO2:69.2mg, CO2:132.1mg,
北海道二海郡八雲町わらび野348 地図
0137-66-2564
日帰り入浴時間9:00~21:00
500円
シャンプー類・ドライヤーあり、ロッカー無し(帳場預かり?)
私の好み:★★+0.5
大自然の景色と温泉の温もりを堪能することこそ、露天風呂の醍醐味ですよね。この温泉を訪れた時には紅葉が美しく、渓流と山々の景色が最高でした。
道南はあまり期待していなかったのですがここ、濁川温泉新栄館、知内温泉など1日にこの3軒にぶち当たった時はノックアウトされてしまいました。
こんないいところにずっと未踏だったなんて信じられないです。まして、その年で最後だったなんて・・・
閉館は実に惜しい宿だと思います。
最後の年にいらっしゃったんですね。しかも一日で、こちらの他に新栄館や知内温泉にも訪れているとは、実に濃い温泉巡りですね。こちらのようなお宿がクローズしてしまうのは、おっしゃるように、実に惜しいことです。ブログの記事にした施設が過去のものになってしまうと、とても寂しいのですが、そのような施設が年々増えており、ただ悲しむばかりで、何もできないもどかしさに煩悶しております。