写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

酷な文字

2014年11月03日 | 生活・ニュース

 朝早く奥さんから作業着と革手袋を渡され、庭のバラ園の草取りを指示された。前日、草刈りバリカンで上っ面は刈ってあるので、根っこから引き抜く作業である。 
 草を抜き始めたが、硬い革手袋では細かな草はつまみにくい。軍手にかえて、根を指先でしっかりとつまんで引き抜く動作を何回も繰り返す。 
 この作業は草取りというよりも、草むしりである。「むしる」とは、つかんだりつまんだりして引き抜くことであるが、単に物をとるというのとは少し違う。「他人からむしり取る」といえば、強引に取り上げたような印象を受ける。
 「むしる」という言葉の意味はそれで納得がいったが、むしるという漢字を見てがくぜんとした。 
 「毟る」と書く。漢字を拡大して、しかと確かめてみると、なんと「少ない毛」といおうか「毛が少ない」といおうか、「毛」という字の上に「少」という字が、今にも滑り落ちそうになって乗っかっているではないか。
  最近、とみに頭頂部が薄くなり始めたのを気にしていたが、洗髪の後の無駄なマッサージでひょっとすると毟りとっていたのかも。その結果、文字通り毛が少なくなったということか。
 辞書によると「毟る」という漢字は中国から伝わってきたものではなく、日本で作られた国字だという。なんとも酷な字を考え出した日本人がいたものだ。
   (2014.11.03 毎日新聞「男の気持ち」掲載)