写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

天空の仕事

2017年01月17日 | 生活・ニュース

 北風が吹く寒い日の昼前、庭に出た。ロケットストーブに火を着け、手をかざしながら西の空を仰いだとき、300m彼方の上空に、黒い点のようなものが見えた。時間の経過とともにその点は北の方向に移動していく。「何だろう」と、単純な疑問がわいてきた。

 目を凝らしてじっと見てみると、曇った空に溶け込むように細い線状のものが南北に掛かっており、それにぶら下がるように人がいるかのように見える。慌てて家の中から自慢の望遠が素晴らしいコンパクトデジカメを持ちだし、最大が120倍のズームを効かせて写真を撮った。再生してみると、長い髪を後ろでむすんだ男が安全帯をしてぶら下がり、何やら工事をしながら北に移動しているのが分かった。

 そういえば、岩国~大竹間にバイパスを作るため、じゃまになる鉄塔を移設する工事が始まっていることは聞いていた。そのため、新しく配線工事をしているのであろう。それにしても高さが地上100mはありそうな高いところで、しかもこの寒空で、たった一人が黙々と仕事をしている。

 丁度その時知人が立ち寄ってきた。ストーブに当たりながら「トイレはどうしているんだろう」と心配する。寒さ対策は万全にしているだろうが、一旦仕事を始めると、おいそれとは降りることは出来ない。こんな生理的なことが他人事ながら心配になる。

 そうこうしていると12時の時報が鳴ったが、降りてくる気配はない。あんな天空で弁当を食べるのだろうか。いや昼過ぎまでやればその日の仕事はやったことにするのかもしれないなど話しながら、知人は帰って行った。こんな過酷な条件での仕事のお陰で我が家にも安定した電気が送られてくる。

 それにしてもコンパクトデジカメ、肉眼ではハエの大きさくらいの黒い点でしか見えなかったものが、髪の形までが分かるくらいの大きさにまでズームできるとは。寒空で一人頑張っている男とこの極小のコンパクトデジカメに、まずはかんぱ~い!!