写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

他生の縁

2017年08月23日 | 季節・自然・植物

 銀行振り込みの手続きを済ませているにもかかわらず、後期高齢者健康保険料の第1期分が振り込まれていないとの督促状が届いた。市役所に電話をしてみると「第2期分からは銀行振り込みで、第1期分はコンビニなどで振り込んでください」という。

 支払期限は数日後に迫っている。夕刻、慌てて近くのセブンイレブンに出かけた。車を止めて入り口に近づいたとき、傘立ての陰で「ジィジィジッ」とうめくような小さな声が聞こえてきた。なんだろうと思いかがんでみると、セミが1匹這いつくばっている。

 振り込みを終えて店を出るとき、もう一度セミを見たが、飛び立つような素振りはなく、入るときに見たままの姿で少しも動いていない。拾い上げて裏返してみると、鳴くこともないまま手足をゆっくりと動かす。「こんな暑い所ではかわいそうだ。庭の涼しそうな草むらにでも置いてやろう」と思い車に乗せて連れて帰った。

 一夜明けた朝、新聞を取りに出たついでに、少し気になっていたセミの様子を見に草むらを覗いた。前日置いていた場所にそのままの状態で伏せている。そっと拾い上げ、左右に小さく揺すってみるが何ら反応はない。セミの手足を触ってみても動かない。死んでいる。

 このセミの最期にこそ立ち会うことはなかったが、「袖振り合うも他生の縁」とでもいおうか、孤独死したセミを菜園の隅にそっと埋めてやった。立ち上がって耳を澄ませてみたが、あれほどやかましかったセミの声も、遠くから1匹のツクツクボウシの声が聞こえるばかり。そういえば今日(23日)は処暑、「暑さがおさまるころ」となり、夏も終わりに近づいた。