写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

手遅れ医者(話題)

2016年08月01日 | 生活・ニュース

 中国新聞の天風録というコラムで、「手遅れ医者」という おもしろい落語があることを知った。患者を診るや否や「アーこれはだめだ」とつぶやく医者が江戸にいたという。もし、治療に失敗しても文句は言われないし、もしも治ったら「名医」との評判が立つと踏んでのことである。

 いまどき、こんな無責任な医者はいないと信じているが、医療の場ではないところで、この医者の気持ちが分からないでもない局面に何度か立ったことがある。

 家を大切に、きれいにしているある奥さんが、2階に上がる階段に転倒防止のための手摺を取り付けたいと言った。必要な工具一式を持っている私は直ぐに協力を申し出て、ご主人と一緒に作業に入った。まずは手摺のサポートを取り付けるところを決めなければいけない。

 洋風の建物なので、壁の表面に柱は出ていなく、壁の裏のどこに柱や中柱が隠されているかを、細い針を使って見当を付けたあと、電動ドリルを使ってサポートをネジで取り付けて行く。ところが、ネジ込んだところに肝心な柱がなく、壁に馬鹿穴が開いただけとなるところが2個所も出来た。

 ご主人も納得・了解の上
で開けた穴とはいっても、私が主導して決めた個所なので、なんだか申し訳ない気持ちになった。とはいえ、小さな馬鹿穴なので充填剤を埋め込めば目立つようなことはないが、きれい好きの奥さんとしては大変気になるところだと感じ、協力をしながらも、ちょっと気まずさが残った。

 またある時、近所の奥さんと立ち話をしている時のことである。ブロック塀に囲まれた家から車で出る時、見通しが悪いので危険を感じる。対策として、出口の塀にガレージミラーを取り付けたいが、家の主人は何もしない。「取り付けていただけませんか」と言われたが、ブロック塀も劣化が進んでいれば、きれいな穴が開かない恐れもある。やってあげたい気持ちはあるが、不要な穴が何個も開いたのでは申し訳ない。そんなことを言いながら、協力を辞退した。

 手遅れ医者のように「これは直らないかもしれないな」などと言いながらやってあげればいいかもしれないが、よそ様の家に手を付けるのは、失敗した時に申し訳ないので、私の技量では我が家のことだけの限定としている。