【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

「潔」

2016-09-23 07:05:32 | Weblog

 富山市議会で「潔く辞任をする」なんてことをインタビューで言っていた人がいましたが、有権者が議員に求めるのは「潔さ」ではなくて「清潔さ」では?

【ただいま読書中】『ジャイアンツ・ハウス』エリザベス・マクラッケン 著、 鴻巣友季子 訳、 新潮社、1999年、2400円(税別)

 時は1950年。
 語り手は図書館司書のミス・ペギー・コート、人間嫌いでロマンスとは縁がない25歳。細部が非常に気になってそれに注釈をつけたくなる性格です。
 彼女が「彼」に出会ったのも、図書館。小学校の行事で図書館訪問にやって来た一行の中でひときわ目立つ少年だったのが、彼、ジェイムズ、11歳。巨人症ですでに大人より身長があるのに小学生の恰好だから、目立ちます。もっともミス・コートが見つめたのは、彼の髪の毛の色・きれいな爪・シャイな性格……何より重要なのは、彼が本好きで、司書を尊敬していたこと。
 そして、司書は少年を愛するようになります。
 こうまとめると「奇形の愛」といった雰囲気が漂いますが、本書はちょっと違います。ペギーは淡々と、自分でさえ客観視して時の経過と二人の変化を描写します。
 季節はめぐり、ジェイムズは190cm、210cmとどんどん大きくなります。今だったら「脳下垂体の異常」「手術」と言えますが、1950年代にはまだそこまで詳しくわかっていなかったのでしょう(「脳下垂体」という言葉が出現するのは、本書の後半になってからです)。ジェームズは苦しみ、ペギーはその苦しみを見守ります。まるで本を慈しみながら読むように。そして私はペギーの人生を本を読むように読みます、というか、本を読んでいるのですが。
 ペギーは“真相”を知ります。ジェイムズは早世することを。そして、ジェイムズ自身、そのことを知っていることも。まだティーンエイジャーなのに。その瞬間、ペギーは「自分に人を愛する力があること」に気づきます。この第1部の終わりの1ページとちょっとの心理描写は、静かで迫力があって、ここを読んで人生が変わる人がもしもいたとしても不思議ではない、と私は感じます。
 ジェイムズの身長はついに245cm。「世界一のノッポ少年」となります。いや、当時としては「世界一のノッポ人間」かもしれません。そして、いつの間にか「有名人」になってしまいます。ペギーは、見物や計測に訪れる人たちのことを、これまでと同じく淡々と冷静に容赦なく評します。そしてサーカスへ。見物に行ったわけではありません。見物されるために行ったのです。
 二人はお互いの愛を確認し、でも結婚やセックスはせず、ジェイムズは死に、彼が住んでいた特注の離れは「ジャイアンツ・ハウス」となり、そしてペギーは「ジェイムズの子」を生みます。いや、なんともびっくりの急展開です。そして、ジェイムズが急死したように、物語はぱたんと終わります。
 身長の差・社会的位置の違い・年齢の差などからどう見ても「お似合いではないカップル」の愛を扱った、なんとも変わった「ロマンス」です。読み終えてもなんだか落ち着かない奇妙な気分です。ただ、「自分はなぜ落ち着かないのだろう?」と考えることができる、良い本です。



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