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【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

ダイヤ

2012-03-26 22:45:09 | Weblog


 私が子供時代には、石炭は「黒いダイヤ」でバナナは「黄色いダイヤ」でした。いまだったら、黒はキャビアや黒トリュフかな。黄色は……数の子?

【ただいま読書中】『バナナの世界史 ──歴史を変えた果物の数奇な運命』ダン・コッペル 著、 黒川由美 訳、 太田出版、2012年、2300円(税別)

 先日「パナマ」を読んだから、今日は「バナナ」です。
 「バナナの木」は樹木ではなくて世界最大の草本/世界には千種を越えるバナナが存在する/野生種のバナナの実は小指程度の大きさ/バナナの原産はアジア/ヴィクトリア湖周辺諸国で「食べ物」を表すことばはスワヒリ語の「バナナ」/現在のアメリカ人が食べているバナナと祖父母の時代のバナナは種類が違う(現在のはキャベンディッシュ、祖父母の時代のはグロスミッチェル(パナマ熱という疫病で消滅))……ところが、パナマ熱に強いはずのキャベンディッシュを犯すパナマ熱やブラック・シガトガ病が発生し、全世界で少しずつ“バナナ”が滅び始めているのだそうです。
 栽培種のバナナには(ふつう)種がありません。ではどうやって増やすかと言えば(挿し木のような)“クローニング”です。つまり、同一種のバナナは世界中どこでも遺伝子型は同じ。ということは「同じ病気に弱い」ことになるのです。
 パプア・ニューギニアのクック遺跡からは、なんと紀元前5000年前の農園跡が出土しましたが、そこで育てられていたのがバナナでした。ただし野生種のバナナは、実は小さくとても固い種が含まれているので、人が食べていたのは地下の球茎だったのではないか、と想像されています(現在の栽培種のバナナではこの球茎で株分けをして増やしています)。アジアからアフリカ、そしてアメリカへとバナナは広がっていきました。それは遺跡だけではなくて、「バナナ」を示すことばの変遷を見ることでも追えるそうです。ちなみに、「banana」の元となったのはアラビア語の「banan(指)」だそうです。
 バナナの大市場であるアメリカに、最初にバナナを大量に供給していたのはジャマイカでした。しかし業者は、さらなる大生産地を求めて中米に移ります。密林を開拓してプランテーションを作るのです。この時の苦労をちゃんと学んでいたら、パナマ運河を造った人たちの苦労は少しは軽減できたかもしれません。ところがここから話はきな臭くなります。バナナ会社には荒っぽい人間がたくさん集まっていて、会社に不都合な政策を採る政府は自分(と傭兵)の手で潰したりしたのです(たとえば、ホンジュラスでの反乱)。さらにアメリカ政府もその後押しをします。1918年には、パナマ・コロンビア・グアテマラで、バナナ労働者のストライキをアメリカ軍が直接鎮圧しています。さらにアメリカ政府の矛先は、中南米の政府そのものにも向けられます。少しでもアメリカ政府(とバナナ会社)に気に入らない言動をする権力者は、さっさとすげ替えられます。本書を読んでいるとその姿はまるで「バナナ帝国主義」です(大航海時代にヨーロッパ列強は、まず探検隊や宣教師を送り込んでから植民地支配をしましたね。その基本姿勢に「バナナ」を振りかけたものです)。
 病気に強くさらにざまざまな利点を持ったバナナを開発するために、旧来からの品種改良の努力だけではなくて、遺伝子組み換えも研究されています。ただし、そこで使われる遺伝子の一部には「魚の遺伝子」も含まれる、と聞くと、私はちょっとためらいを感じてしまいます。それは「バナナ」か?と。
 バナナは戦争の原因となりましたが、同時に戦争(と飢餓)を終わらせるものにもなり得ます。バナナは、「デザートとしてのバナナ」だけではなくて「食料としてのバナナ」という面も持っているからです。そのとき、その土地で育てられる(そして、多くの人を救う)バナナが「遺伝子組み換えバナナ」だった場合、私たちはそれを“選択”するべきでしょうか? これは「科学(と社会)」の問題であると同時に「倫理」の問題でもあるのです。



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