【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

トロトロ

2019-12-02 07:24:47 | Weblog

 トロと言えばマグロ、と思っていたら、回転鮨でトロサーモンに出会ってびっくりしたのはいつのことでしたっけ。今では他の魚どころか豚トロなんてものまである時代で、トロはどこまで進出していくのでしょうねえ。

【ただいま読書中】『読む寿司 ──オイシイ話108ネタ』河原一久 著、 文芸春秋、2019年、1400円(税別)

 「江戸前」と言えば本来は「江戸城の前の入江」のことですが、さらに本来は「そこで獲れたウナギ」のことだったそうです。明治時代でも広告で「江戸前」と書かれていたらそれは「鰻屋」のことだったとか。時代とともに江戸城の前は埋め立てられましたが、江戸湾は豊かな漁場で、「江戸前」の言葉の意味は拡散していきました。江戸湾産ではない魚介類を「江戸のうしろ」と呼んだり、地方からのものを「旅のもの」「場違い」などと呼んで区別していたそうです。
 冷蔵庫も製氷機も無い江戸時代、寿司は保存食として始まりました。だから江戸前に握りには「仕事」が必要になるわけです。しかし流通の進歩で新鮮な魚介が容易に入手できるようになり「刺身寿司(ある江戸前の職人の命名)」が全盛となります。
 「江戸時代にマグロは下魚で猫もまたいで通った」は通説としてありますが、さすがにそこまでの扱いでは無かったようです(もしそうなら、そもそも鮨ネタにはならないでしょう)。ただ大漁の時には値崩れして、たとえば天保三年には体長三尺のものの相場が一匹二百文で、余ったのは肥料にしてそれでも使い切れなかった、という話は残っています。だから良い部分だけを選りすぐって寿司として食べるのに、酢漬けは色が悪くなるのでヅケの技術が発達したそうです。もともと「鮨」の文字は日本では「すし」だけではなくて「シビマグロ」を指し、「マグロも扱う寿司店」が扱わない店と差別化するために「鮨」と表示して客に宣伝をしていた、という説があるそうです。なお「鮨」より先に「すし」で使われていたのは「鮓」で、西日本では現在もこの文字を用いる店もあるそうです。なお「寿司」は江戸末期から使われ始めた当て字で、明治以降急速に広まりました。
 本書は寿司に関するネタ本ですが、あちらこちらに「通ぶった半可通」に対する皮肉が披瀝されます。脳では無くて舌で味わえ、と言いたいのかな。もちろん知識は生活の味付けとして役に立ちますが、私は本書で得たネタを寿司屋で通ぶって披露するのではなくて、ただ「美味いなあ」とニコニコしていることにします。おっと、最近は「回る寿司」ばかりで「回らない寿司屋」にほとんど行っていません。まずはそこから始めなくては。しかし、本書の著者が寿司職人に対して抱くリスペクトと愛は半端ではありません。この域に達するためには相当の“投資"が必要そうです。