世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

冬の子⑤

2017-11-21 04:14:30 | 風紋


トレクというのは、生まれてくる子の父親の名前だった。しかしみなはそれに苦い思いを抱いていた。実は、この子供を授かることになったきっかけというのは、ほぼ強姦に等しいことだったのだ。

ある晩、ビーズ塗りに疲れ果てて横になったエマナの寝入りばなを、忍び込んできたトレクという男が襲い掛かったのだ。

もちろん合意ではなかった。トレクは抵抗するエマナを抑えつけて、強引に思いをとげた。エマナはもう二人の子をもつ大人の女だったが、それでもこれは痛いほどつらいことだったので、翌朝アシメックに訴えた。

この時代、まだ結婚制度というものはなかった。大人になると、男と女はほぼ好きなようにだれとでも異性と交渉していた。こういうトラブルは少なくなかった。

アシメックが調べさせると、襲った男がトレクだということはすぐにわかった。それでアシメックはトレクにこんこんと言い聞かせ、なんとかエマナに謝らせた。そして、子供が生まれたら、トレクがその財産の四分の一をエマナに分けることで、なんとか解決をつけたのだ。

族長というのはこういう仕事もせねばならない。大事な仕事の一つだ。族長はじめ、いい男が目を光らせていない限り、まだ何もわかっていない男が、女に何をするかわからないからだ。女は大事にせねばならない。この世界の人間はみんな女が産むのだから。




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