エマナの子はなかなか生まれなかった。ソノエはエマナを抱きかかえるようにして、しきりに励ました。ちなみにこのころは、後の世のように女は横になって子を産まない。猿のようにしゃがんで産んでいた。だからソノエはエマナの前に陣取り、エマナの下から子が出てくるのを待っていた。苦しんでいるエマナを少しでも楽にしてやろうと、ソノエは前の方からエマナの腰に手を回し、さすりながら、いいことばかりをささやいてやった。
「きっといい子が産まれるよ。かわいくってたまらないよ。そうだ、男の子だったら、ミンドという名前にしないかい。女だったらミンダだ。あんた、ミンダの花をよく摘むじゃないか」
すると、囲炉裏で湯を見ていたソミナが口を挟んだ。
「いや、アシムがいいよ。アシメックのアシム。あんたこのたび、アシメックには世話になったじゃないか」
「それいいねえ。女だったらアシマにすればいい。かわいい子になるよ」
ほかの女も声をかけた。すると苦しんでいるエマナの目から涙が流れた。エマナはすぐに口はきけなかったが、陣痛がゆるんできたすきに、「アシムがいい」と言った。
出産は女たちの協力のたまものだ。友達のいない意地悪な女でも、このときばかりはみんなが集まって助け合う。エマナはいい女だった。魚骨ビーズに色を塗るのが仕事だった。イタカでミンダの花を摘んで、それからとった色で、ビーズを塗るのだ。色を付けたビーズを茅糸で連ねると、それはきれいな首飾りになった。エマナの仕上げた首飾りは、宝蔵で大切に保管されるのだ。