世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

冬の子⑥

2017-11-22 04:12:58 | 風紋


エマナの子はなかなか生まれなかった。ソノエはエマナを抱きかかえるようにして、しきりに励ました。ちなみにこのころは、後の世のように女は横になって子を産まない。猿のようにしゃがんで産んでいた。だからソノエはエマナの前に陣取り、エマナの下から子が出てくるのを待っていた。苦しんでいるエマナを少しでも楽にしてやろうと、ソノエは前の方からエマナの腰に手を回し、さすりながら、いいことばかりをささやいてやった。

「きっといい子が産まれるよ。かわいくってたまらないよ。そうだ、男の子だったら、ミンドという名前にしないかい。女だったらミンダだ。あんた、ミンダの花をよく摘むじゃないか」

すると、囲炉裏で湯を見ていたソミナが口を挟んだ。

「いや、アシムがいいよ。アシメックのアシム。あんたこのたび、アシメックには世話になったじゃないか」

「それいいねえ。女だったらアシマにすればいい。かわいい子になるよ」

ほかの女も声をかけた。すると苦しんでいるエマナの目から涙が流れた。エマナはすぐに口はきけなかったが、陣痛がゆるんできたすきに、「アシムがいい」と言った。

出産は女たちの協力のたまものだ。友達のいない意地悪な女でも、このときばかりはみんなが集まって助け合う。エマナはいい女だった。魚骨ビーズに色を塗るのが仕事だった。イタカでミンダの花を摘んで、それからとった色で、ビーズを塗るのだ。色を付けたビーズを茅糸で連ねると、それはきれいな首飾りになった。エマナの仕上げた首飾りは、宝蔵で大切に保管されるのだ。




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