「われわれも、舟を白く塗ってみたい。白い色はとてもいい色だからだ。稲舟に近寄る魔も少なくなるだろう。どうだ。その技術をわれわれに教えてくれないか。そうすれば、二十一壺にしてやってもいい」
するとゴリンゴは、隣にいるヤルスベの仲間とひそひそ話をしだした。いい傾向だ。交渉はうまくいきそうだ、と思ったとき、彼はゴリンゴの隣にいるアロンダの視線に気づいた。アロンダは美しい黒曜石のような目で、じっとアシメックを見ている。アシメックは、今まで一言も話さずにそこにいただけのアロンダを見て、ちょっとかわいそうになった。男の気を引くために、おそらく無理矢理連れて来られたのだろう。居心地が悪そうに、自分の足をしきりになでている。
「よし、わかった」
と、突然ゴリンゴが言った。
交渉はまとまった。ヤルスベは二十一壺の米をとり、カシワナは相当量のナイフと首飾りと、舟を白く塗る技術をとった。
約束が決まったとき、その場にほっと安堵した空気が流れた。これで今年もうまい米を食うことができる、とヤルスベの中の誰かが言った。
アシメックとゴリンゴは、後の細かい段取りは下の者にまかせ、手を取り合いながら、交渉場の外に出た。交渉が終わった後、族長同士が外を歩きながら雑談するのが風習だった。そこで意見を交わしあい、お互いのこれからを考えていくのだ。アロンダもついてきた。
できるだけこれからも仲良くしたい、とアシメックがいうと、ゴリンゴも、もちろんそうだと言った。アロンダは目を伏せながら、少しつまらなそうに、彼らの二、三歩先を歩いていた。