アシメックとゴリンゴが、広場にさしかかるところまで、一緒に歩いてきたときだった。突然、村の中から叫び声が起こった。
「どろぼうだ! オラブが出たぞ!」
反射的に、アシメックは一歩前に出て、アロンダの腕をつかんで引き戻し、自分の後ろに下がらせた。そして彼女を守るように仁王立ちになりながら、叫んだ。
「つかまえろ!!」
村の中で騒ぎが起こった。一軒の家の向こうで、何人かが追いかけあっている気配が見えた。
「このやろう! 米を狙ってきたな!!」
「おれんところの壺がない!!」
「逃がすな!」
何かが割れる音が聞こえた。アシメックは腰に下げてあるナイフに手をかけた。何と間が悪いことだ。よりによってヤルスベとの交渉の日に出てくるとは。ほかの日ならば、もっとうまくやってやれたものを。
天幕の一つが勢いよくたおれ、そこから弾け飛ぶように、オラブがアシメックの前に飛び出してきた。オラブは小さな壺を胸に抱えていた。アシメックは叫んだ。
「やめるんだ! オラブ!」
オラブは小さな男だった。髪もひげも伸び放題に伸びている。異様に痩せて、目がぎらぎらとしていた。ろくな暮らしをしていないのだろう。オラブはアシメックの顔を見ると、突然青ざめて、くるりときびすを返し、一目散で逃げ出した。逃げ足だけは、だれよりも速いのだ。