そして次の日の早朝、アシメックが準備を終えて広場に行くと、もう三十人ばかりの人が集まっていた。男も女も年寄りも子供もいる。みな藁縄や大きな鹿皮の袋を持っていた。茅布の袋も丈夫だが、重い栗や林檎の重みには耐えられないからだ。
「よし」とアシメックは言った。空も晴れている。みなもうれしそうだ。秋の山狩りは、村人にとっては一大娯楽だったからだ。今の季節、イタカの向こうにあるアルカの山に行けば、木の実やキノコがおもしろいほどたくさん採れるのだ。
イタカの野は、村の東側にある。草原が広がり、そこから南西の方に行けばだんだん地面が湿って来てオロソ沼になる。だがもっと東に行けば、アルカというなだらかな山があるのだ。アルカはアルカラへの道と言われていた。人間は死ぬとき、この山の上を越えて、死者の国アルカラにいくそうだ。
アシメックは一行を導いてイタカの野に出た。遠目にアルカ山が見える。見事に紅葉していた。実に美しい。どこからか夏鳥の声も聞こえる。まだ渡りをしていないのだ。ということは、今年の山の恵みもすばらしいということだろう。
野をしばらく歩いていくと、木立が多くなる。先祖の時代から覚えている道を行くと、大きな灰色の岩にぶつかる。そこからが山の始まりだった。その岩につくと、アシメックは一行を振り返っていった。
「ここからはみんな自由行動だ。二人以上一組で行動しろ。迷ったらいかんぞ。子供は必ず大人についていけ」
そうすると、わあっという歓声をあげて、村人は一斉に山に入っていった。