星を見ているうちに、アシメックは少しうとうとし始めた。眠ってはいけないのだが、何かに引き込まれるように眠りに入ってしまった。
イタカの野に細い川を描き
稲を歩かせ
豊の実りを太らせよ
ケバルライ
歌が聞こえる。なんときれいな声だろう。アシメックはふと目を覚ました。
気が付くと、夜があけていた。これはいかん、朝まで眠ってしまったのかと思い、アシメックは飛び起きた。だが、不思議なことに、周りを見回しても、ほかの見張り役の男がいなかった。みなどこに行ったのか、と思い立ち上がろうとしたとき、翼の音がした。
はっとして、振り向いた。そしてそのまま凍りつくように固まった。そこに、自分より大きな男がいたからだ。しかも、すばらしい鷲のつばさを、背中に広げている。
か、カシワナカだ。
そう思ったアシメックはすぐに頭を地につけて伏し、神への挨拶をした。
これは夢だろうか、とアシメックは思った。体が震えていた。夢で神の姿を見たことはあるが、こんなにはっきりとした姿で見るのは初めてだ。神カシワナカはまた、不思議な声で言った。
ケバルライ
イタカの野に細い川を描き
稲を歩かせよ
ケバルライ? それはどういう意味ですか?
そうアシメックが言いながら顔をあげたとき、彼は目を覚ました。
満天の星が目に入った。眠っていたのか、と思いながら彼は身を起こした。前とほとんど星の位置は変わっていない。ということは眠っていたのはほんの少しの間だけなのだ。だが、確かに夢で神を見た。あのすばらしい鷲の翼を覚えている。カシワナカは立派な男の姿をしていて、背に鷲の翼があるのだ。
イタカの野に? なんていったのか?
アシメックは夢でカシワナカの言ったことばを思い出そうとしたが、できなかった。だがこれは何かのしるしに違いない。彼は見張り役の男の中にミコルの姿を探したが、いなかった。アシメックは朝になったら、ミコルに夢のことを相談しなければならないと思った。
ほかの見張り役もうとうとしていたのだろう。広場の真ん中に燃やしていた火が消えかけていた。アシメックは火に近寄り、榾をくべて息を吹きかけ、火を起こした。空を見ると、カシワナカの星が中天にさしかかっている。夜明けはそう遠くない。
秋とは言え夜は寒かった。アシメックは鹿皮を肩にかけた。そして火にあたりながら、夜明けを待つことにした。