世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

稲刈り⑧

2017-10-10 04:13:13 | 風紋


一連の作業がすべて終わった日、アシメックはみなを集めて言った。

「今年もみんなご苦労だった。おかげでたくさんの米がとれた。カシワナカに礼を言おう。今日はゆっくりやすめ。明日になれば、祝いの準備をしよう。きょうはゆっくりやすめ」

するとみんなは風にそよぐ稲のように、うれしそうな声をあげた。アシメックが帰れの合図をすると、用のないものはすぐに帰っていった。

ミコルと村の役男五人が残った。稲の祭りのための話し合いをするためだ。

「明日の昼にもなれば疲れもとれているだろう」
「アシメック、カシワナカの踊りを踊ってくれるか」
「いいともさ。みなでカシワナカをたたえよう」
「囃子はいつものようにセオルの仲間に頼むといいだろう。あいつはうまいからな」
「それより、明日は一番に、至聖所に米を祭らねばならない」
「それはおれとミコルがやるよ」
「米を煮るための火を今から準備しておこう」

皆疲れていたが、村のためと言えばやってくれる男たちだ。アシメックと村の役男たちで、祝いの祭りをやる広場に、榾を集めた。そして米を煮る水と壺も用意した。

「これだけやっておけば、あとは明日にみんなでやろう」
「いいだろう、見張りは三人でいい。俺は残るが、あとの二人はだれがする」

そうして、アシメックと二人の村役の男が広場に残った。彼らはこの広場で一晩中、起きていなければならない。それくらいのことはしなければならないのが、偉い男というものだ。

稲蔵の前の広場に、アシメックは鹿皮の床を敷き、横になった。日は沈み、星が見え始めた。米がとれたばかりのこのころは危ない。わんさとたまった米を狙って、オラブが盗みに来る恐れがあるし、ヤルスベ族の馬鹿な奴が狙っていないとも限らない。とにかく、稲蔵の見張りは欠かしてはならないというのも、祖先の教えのひとつだった。

疲れてはいたが、目は冴えていた。この夜は月はなかった。だから風紋占いに使う砂のような星が、天を支配した。美しい、と思う。中でもひときわ明るく輝く星は、みながカシワナカの星と呼んでいる星だ。カシワナカはあそこに住んでいると言われている。ときどきカシワナ族の土地に下りてきて、みんなのためにいろんなことをしてくれるのだ。

きっと今も見てくれているんだろう。明日はカシワナカの踊りを踊らなければならない。フウロ鳥の羽で作った冠をかぶり、カシワナカの歌を歌いながら、堂々と踊らねばならない。それは族長の役目だ。




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