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村の役男は五人ほどいる。みな体格の大きな男で、村のために重要な仕事をしてくれる男だ。その中に、ダヴィルという男がいた。三十六になる。役男をはじめてもう五年ほどになる。若い時から人と交渉するのに才があった。人の気持ちを読むのがうまいのだ。人の言葉を聞く前に、その人の言うことがわかるとさえ言う。
稲の収穫の祭りが終わって二日ほど経った朝のことだ。そのダヴィルが早朝からアシメックを訪ねてきた。アシメックは頬の化粧を塗りなおしながら、ダヴィルと会った。
「アシメック、ヤルスベが向こう岸で丸太をたたいてる」
ダヴィルは少し焦った様子で言った。
「何、こんなに早くからか」
アシメックは驚いて言った。そして化粧を手早く終えると、アシメックはダヴィルについてケセン川の方に走っていった。
ケセン川の水の香りが漂ってくる頃、不思議な歌が聞こえて来た。丸太をたたくリズムに合わせて、向こう岸でヤルスベ族が歌っているのだ。
今やそのとき
今やそのとき
川をわたるぞ
舟はゆくぞ
テヅルカの使いはゆくぞ
ヤルスベ族の言葉は聞きづらいが、だいたいこういうことを言っているのがわかる。ヤルスベ族とカシワナ族は、肌の色は似ていたが、顔の特徴が違っていた。文化もかなり違っていたし、言葉は似ていたが違うところも多かった。とにかく、わかりにくい相手だ。