すぐに返事はなかったが、しばらくしてスライは悔しそうな顔をして作業場に戻ってきた。その顔を見て、アシメックは何が起こったかわかった。スライは悔しそうに、「ちきしょう」と言いつつ、天幕の裏に回った。
「やっぱり、裏に干してあった魚がない。こそどろめ、やりやがった」
「オラブだな」
「決まってるだろう」
カシワナ族にも、困ったやつというのはいた。オラブはそういう男だ。村でまっとうな仕事をせず、しょっちゅう人からものを盗んで暮らしていた。子供の時に盗みを覚えて味をしめて以来、そればかりやるようになって、母親にもあきれられ、十五の年に家を追い出されてから、どこに住んでいるのかもわからない。ただ時々、村に忍び込んで来ては、適当な家から何かを盗んでいくのだ。
「困った奴だ。どうにかしないといけない」
アシメックは苦い顔をした。今まで何度となく、オラブを捕まえて説教をしようとしたが、オラブは恐れてだれにも近寄ろうとしなかった。スライやエルヅのような、比較的体の小さい男の家を狙って盗みをする。女の家からも盗む。
オラブはエルヅよりも体が小さく、醜かった。嫌な臭いがすると言って、女たちにもひどく嫌われていた。そんなことも影響しているのだろう。子供のころから友達は全くおらず、親にもいい顔はされていなかったようだ。