世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

交渉④

2017-10-24 04:13:07 | 風紋


子供が目を輝かせて、ひゅーひゅーと空蝉をふきながら走り回った。恐ろしく興味があるみたいだった。母親の話では、ヤルスベ族は、人間なのに、まるで人間でないような顔をしているという。そんなおもしろいものをぜひとも見てみたい。だが母親たちは子供たちを、異民族に食われてはたまらないというように、家の中に閉じ込めようとやっきになった。

「あいつらは、カシワナカとは違う、変な魔物みたいのをいつも拝んでいるんだ。テヅルカっていうんだぞ。こわいやつらなんだ。取って食われたらこまる。子供は家にいろ」

ソミナは明日アシメックが身につける、族長の冠やビーズの首飾りの手入れをした。異民族に、アシメックの立派さをこれでもかと見せつけたかったのだ。ミコルに頼んで、一番上等な赤色の化粧土ももらってきた。これをつければ、アシメックは一層男らしさが引き立つ。きっとヤルスベはびっくりするだろう。そう思うだけで、ソミナは胸がわくわくした。ソミナにとっては、わが兄ほど立派な男はいない。

忙しい最中、ミコルがアシメックの家にやってきた。彼はアシメックと相談をしたかったのだ。とにかく、ヤルスベに負けてはならない、とミコルは言った。
「奴らは毎年、どんどんたくさんの米を要求するようになってきている。それなのに交換してくれるナイフやほかの宝の量は増えない。これ以上持っていかれたら、こっちの食べる分が少なくなりすぎる」

ミコルは心配げに続けた。
「こっちがしぶると、訳のわからない言葉を次々に言って騒ぐのだ。やつらはカシワナの言葉をかなり研究している。やつらは、おれたちのいうことはだいぶわかる。だけどおれたちは、ヤルスベの言葉はわかりにくい。いろんな知らない言葉がある」




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