ケセン川の岸辺につくと、向こう岸にヤルスベ族の人間が十人ほども並び、丸太をたたくリズムに合わせて、声を張り上げて歌っていた。アシメックは苦い顔をした。
「今年も米が欲しいんだな」とアシメックは言った。
「米はうまいからな。ヤルスベも目がないのだ」とダヴィルは言った。
「楽師を呼んでくれ。無視するわけにはいかない。争いなんかしたくないからな。それに鉄のナイフもだいぶ傷んでいるのがある」
「セオルに言って来る。なんて歌わせようか」
「今日はまずい、明日来いと歌うんだ。明日までに準備をしよう」
アシメックが言うと、ダヴィルはさっそく楽師を呼びに行った。セオルが率いる楽師たちは楽器の丸太と弓をかかえ、ケセン川の岸辺に、ヤルスベと向き合うような形で並んだ。そして歌った。
今はまだはやい
今はまだはやい
あしたこい
あしたこい
カシワナカの使いは待っている
楽師たちの声は向こう岸のヤルスベ族に届いたようだ。わかったという意味の声が聞こえると、すぐに川岸から去っていった。その様子を見て、アシメックはほっとした。