子供の頃、自宅の前で上を見上げると、青い広い大空を大きな煙突(高さ180m)が突き刺していました。
毎日見てましたが、
「この煙突、私らの承諾もなしに勝手に大空を突き刺していいの!」
そんなことを考える生意気な子供でした。
ある日、外出先で耳にしました。
「あの煙突から人が落ちたんだってよ、若い男だって」
「あーーっと叫びながら落ちる、その声を聞いた人がいるんだって」
そうか、大変な事故ね、帰って母にも伝えようっと。
帰宅すると、家の中が何か変!。
母が顔を引きつらせて
「今、お父さんの部屋に人がいっぱい来てる」
父は風邪を引いて会社を休んでいました。
父の寝室を覗くと狭い6畳の部屋に作業服を着た沢山の男の人がビッシリ、床に正座してます。。
父はパジャマ姿でベッドに腰掛けてうなだれています。
男の人達も下を向いてる。
年配の人が父に、ボソボソ一生懸命謝ってる声が聞こえます。
落ちて亡くなった人は、会社の出入りの業者さんの従業員で20才位だったそうです。
会社側の父に
「こんな大事故を起こしてすみません」
父には業者さんに安全対策をしっかりさせる責任があったのでしょう。
いつも弱い立場の人をものすごく思いやる父、どんなにか辛かったでしょう。
でも事件のことは、家では話題に出ませんでした。
電気関係の仕事だった父、子供の私が知ってるだけでもいろんな事故がありました。
水力発電所勤務の時、部下が仕事をさぼってそばの川で魚釣りをしようとして、竹竿の先を変電所の電線に接触させて大事故。
本当はその工員は解雇になるところ、父が必死で彼の首をつないであげました。
また中年の男性が、うっかり高圧線に触れて意識不明の重体になりました。
その時は、私も必死で
「神様どうか、助けてあげてください」
と祈りました。
彼は助かりましたが、右目、右腕、口の半分が使えなくなりました。
父は家族には人気がなく、かげでは子供同士で悪口ばっかり言ってました。
私らの知らない苦労が沢山あっただろう、もっと感謝すれば良かった。