夜な夜なシネマ

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『人生の特等席』

2012年12月01日 | 映画(さ行)
『人生の特等席』(原題:Trouble with the Curve)
監督:ロバート・ロレンツ
出演:クリント・イーストウッド,エイミー・アダムス,ジャスティン・ティンバーレイク,
   ジョン・グッドマン,ロバート・パトリック,マシュー・リラード他

近所のシネコンにて鑑賞しました。

ちょうど去年の今ごろ、話題になっていた野球映画といえば『マネーボール』(2011)。
強い球団にするために、徹底的にデータを分析して選手を獲得する、
その方法に目を見張り、おもしろいなぁと感心したものでした。
本作はまるでそれに喧嘩を売っているのかと思うような選手の見極め方。(^^;

2008年に俳優引退宣言をしたクリント・イーストウッドが、
その宣言を撤回してまで出演を決めた脚本という触れ込みです。
監督は、長年にわたってイーストウッド作品の製作を務めてきた新鋭にしてオジサマ。
イーストウッド本人が監督だったらと比較されそうですが、
ずっと右腕だっただけあって、全体の雰囲気が似ています。

メジャーリーグの伝説的スカウトマン、ガス・ロベル。
しかし、パソコンを使ったデータ分析が主流となり、
ひたすら歩いて自分の目で見るガスのやり方はもはや時代遅れと揶揄されている。
同僚のフィリップなどは、自分で現地に足を運ぶことはなく、
パソコンから得るデータと現地に派遣する助手からの情報を重視。

球団経営陣もガスを信用したい気持ちはやまやまだが、
残すところ数カ月の彼の契約を延長するかどうかは検討中。
旧友のピートだけはガスの腕をかたく信じつづけている。

今季のドラフトの目玉選手は、30年選手のような風格の高校生ジョー。
ドラフト前の最終調査へと出向くガスの体調を心配したピートは、
ガスの一人娘で有能な弁護士ミッキーに同行を頼む。
弁護士事務所の共同経営者の話もあるミッキーはそれどころではなかったが、
偏屈親父のガスのことが気になって現地へ向かい……。

親子というよりは爺ちゃんと孫に見えるガスとミッキーに違和感はありますが、
なんせ健さんが田中裕子と夫婦吉永小百合が仲村トオルと不倫ですからね、
この程度の年齢の違和感なんてカワイイもんかもしれません。

派手な野球シーンがあるわけでもなく、堅実につくられた感。
役者陣の演技によってググッと引きつけられます。
男前なのにどこかおちゃらけたイメージのジャスティン・ティンバーレイクは、
本作でも子どもたちから変人呼ばわりされますが、『バッド・ティーチャー』よりずっとイイ。
故障で選手生命を絶たれ、スカウトマンとして再スタートをきった青年を好演。
『ファミリー・ツリー』の情けない色男、マシュー・リラードはここでも嫌な奴。
『アルゴ』のジョン・グッドマンは大きな心のあったかい人。
いい奴はいい奴、嫌な奴は嫌な奴とわかりやすいのも良いところ。

ところで、原題は“Trouble with the Curve”。
選手の獲得について『マネーボール』派か『人生の特等席』派かと聞かれたら?
先日読んだ東野圭吾の『真夏の方程式』で、異なる意見の相手と対峙する場合について、
湯川博士がこんなことを言っていました。
一方を重視するだけで十分というのは傲慢な態度で、
相手の仕事や考え方をリスペクトし、理解しようという気持ちを持つべきだと。
めっちゃ正しい意見だと深くうなずきましたが、
こんな映画を見せられたら、やっぱり人に勝るものなしと思ったりして。

本作中にちらりと名前が登場するメジャーリーガー、ヨギ・ベラは、
シンプルだけど意味不明な名(迷)言を残した選手として
伊坂幸太郎の『あるキング』にも登場しています。

その『あるキング』には、こんな会話がありました。
天才でありながら不遇なキングには、自分に目をかけてくれた「てっちゃん」がいます。
てっちゃんが緊急入院したと聞き、プロ野球選手になる機会を放り出して病院へ駆けつけようとすると、
てっちゃんの代わりに迎えにやってきた男が「おまえは医者か」。それに続いて。

「おまえは野球をやれ。おまえの野球が、てっちゃんを救う」
「医者じゃないけれど」
「医者は向かい合った相手しか治せない。おまえはもっとすごい」。

野球ってすごい。

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