まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

「奇跡の人」 in 『ガラスの仮面』

2012-02-18 13:21:35 | 人間文化論
採点がなかなか進まず、逃避のために 『ガラスの仮面』 を引っ張り出してきてしまいました。
もう何度読んだかわからない、私のバイブルです。
そのなかの10巻から12巻にかけては 「奇跡の人」 を扱っています。
三重苦のヘレン・ケラーとその家庭教師サリバン先生の実話に基づく舞台です。
ここを読み返してみて、自分の人間観はこの 「奇跡の人」 というか、
『ガラスの仮面』 にものすごく影響受けていたのだなあと再確認してしまいました。
ちょっと引用してみましょう。
まずはヘレンのお母さんがサリバン先生を初めて迎え入れたときの会話です。

「あなたはおいくつ?」
「まさか10代じゃありませんわ!
 奥さん!
 わたしがよぼよぼの年寄りじゃないからといってがっかりしないでください!
 ハウ博士にくらべればわたしにはお金で買えない三つの利点があります!
 一つは博士の仕事がわたしを支えてくれるということ!
 わたしは博士がお書きになったものを残らず読みました
 相当な量でした!
 もう一つは若いということ…
 つまりなんだってできるエネルギーがあるということです!
 三つ目はわたしが盲目だったということ」
「それだけ有利だってわけね
 はじめに何を教えるんですか?」
「はじめも終わりも途中も言葉です!」
「言葉…!」
「心にとって言葉は目にとっての光以上のものです
 ハウ博士がそういっていますわ!」
「言葉…ね
 わたし達はあの子にじっと座ってることさえ教えられないのに…
 あなたはやっぱりお若いわ
 そんな自信がもてるなんて…」

そうなんです。
この話は人間にとって言葉がどれほど重要かということをテーマにしているんです。
サリバン先生はまずヘレンの指に触れるものの名前を指文字で教えていきます。

「INK インク
 そういう名前なの
 これはカード」
「それがこの子にわかるんですか?」
「いいえ 言葉というものをしらないのですから
 文字がなんなのかわからないでしょうね
 まだこれはヘレンにとっては指の遊びにしかすぎません
 まず覚えなければいけないのは物には名前があるってことなんです」

記憶力のいいヘレンは指の形のまねだけは覚えていくのですが、
それが物の名前であるということをなかなか理解できません。

「水よヘレン
 これが水…
 ウォーター
 W・A・T・E・R
 そういう名前なの
 卵
 E・G・G
 これも名前よ
 物には名前があるの
 ヘレン…
 ねぇヘレン
 ひなだってときには殻を破って出てくるのよ
 あんただって出てこなけりゃ…
 あんたがそこから出る方法はただひとつ
 言葉なのよ
 指で話ができるようにならなけりゃ」

「どうやって鳥は飛ぶことを覚えるんでしょう?
 わたし達は自然に言葉を使っています
 鳥が羽を使うように
 そういうものなのです
 ヘレンは眠っていても字を綴ります
 しらずしらずのうちに字を形づくっているんです
 あの5本の指はちゃんとしっていて
 手がしゃべりたくてたまらないのです
 でも心の中ではなにかが眠っている…
 どうしたらそれをつついて目覚めさせられるか
 問題はそこです」

「ヘレンはすべてのものに名前があるということを学ばなければなりません
 自分のまわりにあるものも心の中のことも
 この世のすべてに対して言葉こそがヘレンの眼になるのです!
 ヘレンはもうすでに18の名詞と3つの動詞を覚えました
 でも今は指が覚えているだけですから
 どうしてもそれを心と結びつける時間がいるのです!
 たった一つの言葉でいい!
 それではじめてここでヘレンが覚えたことが生きてくるのです」

「ヘレン!
 あんたにわたし教えてあげたいのよ!
 この地上にあるすべてを!
 ねぇヘレン!
 この地上にあるすべてはあっという間にわたし達のものになりまた消えていくの!
 でもわたし達には言葉という光があって
 この言葉を使えば後にのこせるわ!
 言葉の光に照らせば五千年も昔を見ることができる!
 わたし達が感じたり考えたり知ったり
 それを伝えあったりするすべてが言葉の中にあるのよ!
 言葉さえあれば人間 暗闇からぬけだせる!
 お墓にはいっていることはないのよ!
 わたしにはわかっている よくわかってるの!
 たった一つの言葉であんたはその手に世界を握りしめることができるんだわ!…!
 でもどうしたら
 いったいどうしたらあんたにそれがわかるの…?」

とまあ、そういう長い苦悩があって、
あの有名な井戸水のラストシーンになるわけです。
人間はロゴス (言葉、理性) をもつ動物であって、人間にとっては言葉が何よりも大切だ、
というひじょうに理性主義的な私の人間観はカントを学ぶ以前に、
この 『ガラスの仮面』(正確には 「奇跡の人」?) によって植えつけられていたのかもしれません。
マンガによる教養形成、おそるべしっ!


最新の画像もっと見る

コメントを投稿