まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

チェスはスポーツらしい

2011-12-01 19:19:50 | 人間文化論
3年以上前に 「チェスはスポーツか?」 という話を書きかけて、
それっきりほったらかしておりました。
最近になってその記事に対しコメントを頂戴し、宿題が残っていたことを思い出した次第です。

結論から言うと、チェスはスポーツらしいです。
まずは sports という概念が日本人が考えるものよりも広い意味をもっているのです。
日本語でスポーツというと、例えば次のように定義されたりします。
「人間が考案した施設や技術、ルールに則って営まれる、
 遊技、競争、肉体鍛錬の要素を含む身体を使った行為。」
ここでは、「肉体鍛錬」 とか 「身体を使った」 という語によって、
二重にスポーツの範囲が限定されています。
しかし、もともと sport の語源は disport で、
dis が 「離れる」、port が 「移動させる」 を意味しており、
disport は、「日常生活から心を離れさせること」、
すなわち、「気晴らし」、「楽しみ」、「遊び」、「娯楽」 などを指す語でした。
disport から派生した sport にも同じ意味が未だに残っています。
もちろん、英語の sport も基本的には 「身体運動」、「身体活動」 を指します。
つまり、sport には 「身体運動」 という狭い意味と、「娯楽一般」 という広い意味があり、
チェスは前者の意味でのスポーツには含まれないけれけど、
後者の意味のスポーツには完全に含まれることになるわけです。

さらに20世紀の終わり頃からのある新しい流れがこの話をややこしくします。
mind sport とか brain sport という新しい概念が生み出されてきたのです。
狭義の sport は physical sport と呼ぶことにして、
広義のスポーツを 「フィジカル・スポーツ (身体スポーツ)」 と
「マインド・スポーツ (頭脳スポーツ)」 に分類するようにしようという流れに現在はなってきています。
こうしたなかで国際マインドスポーツ協会が設立され、
マインドスポーツオリンピアードといったものもすでに開催されているのです。
こうなると、チェスは完全にマインド・スポーツと言えるわけですから、
立派なスポーツとなるわけです。

この流れを国際オリンピック委員会 (IOC) も後押しするような形になっています。
1983年にARISFという組織が設立されました。
Association of Recognized IOC International Sports Federations です。
日本語では 「IOC承認国際競技団体連合」 と訳されていますが、
直訳すれば、「IOC承認国際スポーツ団体連合」 です。
この組織は、まだオリンピック種目に採用されてはいないけれど、
将来その可能性があるものとしてIOCが承認したスポーツの団体で構成されます。
ここに国際チェス連盟が名を連ねているのです。
チェス以外では、トランプ・ゲームのブリッジがマインド・スポーツの中から加入を許されています。
ARISFに加入するためには、まずはそれぞれのスポーツ団体が承認してもらうための運動をする、
というのが前提ですので、IOCがチェスとブリッジだけをスポーツとして承認したというよりは、
他のマインド・スポーツはそんなことを求めていないか、
国際組織がきちんと整備されていないためにまだ認められていないかのどちらかなのでしょう。
(例えば、ARISFの加盟団体のなかに相撲や空手は入っていますが、剣道は見当たりません。
 剣道は、柔道がオリンピック種目になったことによってどんどん変質せざるをえなかったのを見て、
 オリンピック種目になろうという野心を捨てたのだ、という話を聞いたことがあります。)
北京オリンピック開催前には、麻雀をARISFに加盟させようという運動があったそうですが、
これはけっきょく承認されなかったようです。
いずれにせよ、IOCが国際チェス連盟を国際スポーツ団体として承認しているわけですから、
そりゃあもう、チェスはスポーツなのでしょう。
あんまり納得いきませんが…。

けっきょくのところ、スポーツはあくまでもフィジカル (身体的) なもの、
という狭い見方から脱却できるかどうか次第ですね。
私としては、最悪、チェスをスポーツとして認めてもいいけれど、
せめてフィジカル・スポーツとマインド・スポーツの区別は堅持してもらいたいものだと思います。
ですので、ARISFはARIPSFとARIMSFに分割して、
チェスをオリンピック種目にしたりするようなことはせず、
今後もマインドスポーツオリンピアードの花形種目としておけばいいのではないかと思うのです。


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