まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

Q.今まで話を聞いたり読んだりしてきたなかで、一番驚いたりなるほどと思ったことは何ですか?

2015-09-29 14:12:59 | 人間文化論
ご質問ありがとうございます。

哲学や倫理学の専門書だったらもう無限にいろいろとあるのですが、

せっかくですので皆さんでも読めそうなやつのなかからセレクトしてみることにしましょう。

第2回目の授業のときに 「人間とは何か」 について考えてもらい、

私のほうからも少し話させていただきました。

そのときに人間は 「本能の壊れた動物」 だという説をご紹介しました。

その説に初めて出会ったのが岸田秀の 『ものぐさ精神分析』 という本でした。



私の説明では、人間は本能が壊れているが、壊れたままだと生きていくことができないので、

本能の代替物として人間は 「文化」 を生み出し、文化を後天的に学んでいくことによって、

何とか世界に適応して生きていけるようになったのだ、というふうにお話ししました。

岸田氏の議論は同じことをもっと過激に表現していて、

本能が壊れた人間は現実に適合するために 「幻想」 を作り出したのだ、と論じています。

そのような自らの世界観を岸田氏は 「唯幻論」 と命名しました。

唯幻論とは、人間にとって世界はすべて幻想である、という意味です。

これにはものすごく衝撃を受けました。

人間は本能の壊れた動物だという説だけでも十分に破壊力があったのに、

その補完のために人間が生み出したものはすべて幻想である、というのは本当に破壊力抜群でした。

自分が信じてきた価値やこれから研究していこうと思っていた倫理や道徳が、

すべては幻想にすぎないと言われてものすごくショックを受けましたが、これによってふっきれて、

一切を疑っていいのだと哲学・倫理学の道に進む覚悟ができたのかもしれません。

岸田氏は心理学者・精神分析学者であって、哲学者・倫理学者ではないのですが、

私が哲学・倫理学の道へ進む後押しをしてくれた人のひとりであったとも言えるでしょう。

というわけで、質問へのお答えとしては次のようにまとめておくことにします。


A.今までで一番驚きそして納得したのは岸田秀氏の 「唯幻論」 です。


岸田氏の本のなかで代表的な、というか読みやすそうなものを何冊か以下に挙げておきます。

実は、第1回目の授業でお配りした参考文献一覧のなかに岸田氏の本は入れませんでした。

基本的には心理学・精神分析学の本なので、

哲学・倫理学の参考文献として挙げるのがためらわれたのもありますが、

それ以上に、内容的に若者にはあまりにもインパクトが強すぎるかなと自主規制した部分もあります。

「本能の壊れた動物」 という説にあまり違和感を感じなかった人、

あの話をもっと突き詰めて考えてみたいというチャレンジ精神旺盛な人はぜひ読んでみてください。
 

『ものぐさ精神分析』(中公文庫)

『続ものぐさ精神分析』(中公文庫)

『唯幻論物語』(文春新書)

『性的唯幻論序説―「やられる」セックスはもういらない』 (文春文庫)


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