新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

比亜有限公司(BYD)

2018-06-18 07:58:32 | コラム
後発なるが故に:

毎度のことながら、何処の局が流したニュースかは失念した。だが、そのBYD関連の内容には1997年1月に初めて訪れたインドネシアの、今では世界的な大製紙会社となった Asia Pulp & Paper(APP) の最新鋭機の、未だ且つ見たこともないような大型の能力に圧倒されたのと同じような衝撃を受けた。その抄紙機が凄いという前評判を聞かされていたが、実際にその規模と速度と超高速で出て来る紙質を見れば、大袈裟に言えば言葉を失うほどだった。しかもその機械は日本のM重工製だったのにも圧倒された。因みに、年産能力は所謂「模造紙」で50万トンだった。

念の為に申し添えておけば、その数年後だったかに我が国の大手メーカー4社が挙って導入したやや似通った印刷用紙ようのマシンの年産能力が30~35万トンで、それでも業界の消息通は「それほど大型の設備を導入して一体何処に売るという宛てがあるのか」と揶揄したほど、当時の我が国では過剰な生産能力だとの評価が与えられたのだった。

APPに話を戻そう。この会社は華僑系の財閥が経営するアジアの新興勢力で、後発なるが故にその新鋭工場に次から次へと導入される抄紙機は何れも世界最新式で、最早世界最大の製紙国のはずだったアメリカや第2の我が国には今更新規に設備投資して導入することなどあり得ない超最新鋭の超大型機のみだった。簡単に言えば、その新鋭機はほとんど人手を排除し、完全にコンピュータ制御されており、最初に原料のパルプを投入すれば最後には規定の寸法に裁断されたコピー用紙が段ボール箱に詰まって出てくるという仕掛けになっているのだ。

一寸恥ずかしい比較をすれば、2005年までは世界最大級の上質紙(=模造紙)メーカーの一角を占めていた我がW社が最後まで運転していた古いマシンの年産能力は15万トンだったのだ。この比較だけでもAPPのマシンが如何に巨大かが解ろうというもの。即ち、20世紀末になって製紙業界に進出してきたAPPや中国や韓国やタイ等のメーカーは後発なるが故に既存の大手製紙国が所有しているような「時代遅れ」の抄紙機は入手できず、年産能力が50万トンから100万トンにも迫る大型機しか導入できなくなっていたのだ。

更なる問題は、これらの新鋭マシンではこれまでの旧型マシンを長年蓄積してきた経験と技術を活かして高度な品質の紙を製造してきた練達熟練の現場の技術者を必要としなくなっていたのだった。機械がその役目を十分に果たし、熟練した技術者が作ってきた紙に比較して遜色がなくなっていたのだった。私が「製紙の神様」と称えた某大手製紙会社の現場の課長さんも「蓄積してきた技術と経験がものを言わぬ時代が近くなった」と嘆息された。

今回は製紙業界の変革を語るつもりではなかった。私は深圳の街を走っている100数十台のバスや無数のタクシーの大部分は最早「比亜迪股份有限公司(BYD)」の電気自動車に置き換えられつつあるという報道に衝撃を受けたのだった。そして、このニュースを聞いて上記のAPPでの経験を思い出したのだった。即ち、中国は自動車産業では後発なるが故に一気にHybridを通り越して電気自動車の分野に突入できたのだということだと感じた。何でも90分の充電で900 km走行可能とか言われていた。

比亜迪股份有限公司の日本支社長の説明では「中国には大気汚染というのっぴきならない事情があって電気自動車を推進した」となっていたが、それは兎も角、欧州では今後はガソリン車の生産を認めないという国まで現れた現在では、BYDは明らかに我が国対してだけでも一歩も二歩も先んじていることになると危惧した。トヨタにしてもホンダにしても現時点では到底BYDには追い付いていないのではないか。追い付く場合の等の投資は生易しい金額ではあるまい。

先日も某電器会社の元幹部役員だった方とも語り合ったのだが、こと電気自動車の時代ともなれば電池の分野で遅れていては追い付いていけぬ時代となったのは明らかであると振り返っておられた。アメリカのテスラーだって生産能力の他に電池の手配でも行き悩んでいる様子だ。私は電器自動車にするのは結構だと思うが、アメリカのように今でもあれだけ大量の従来型自動車が走っている国ではどうする気なのかと、トランプ様に伺って見たい衝動に駆られる。

今や、嘗ての先進国は気が付けば後進国になってしまう危険性が極めて高い時代となった。スマートフォンを考えて見よ。固定電話が普及しなかった後発国ではあの普及振りだ。ここ新宿区に来てイスラム横丁を歩いて見よ。露天のような店が勝手にビルの壁にガラスケースを設けてスマートフォンを商っている。時の流れの速さと変化は恐ろしいものがある。そのうちにBYDの電気自動車が東京の街を疾駆するのではないか。そんなことがあってはなるまい。



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