井沢満ブログ

後進に伝えたい技術論もないわけではなく、「井沢満の脚本講座」をたまに、後はのんびりよしなしごとを綴って行きます。

脚本家の目から見た韓流

2012年12月25日 | コン・ユ

コン・ユ、イ・ミンジョン、と韓流スターの名を並べると、またアクセス数が
唐突にアップするのだろうか? ー笑ー
韓流にブームなどなかったとする説があるが、いやなくはなかったので、
「冬のソナタ」「チャングムの誓い」辺りまでは、本当のブームだった
と思います。

韓国の国策としての韓流押しつけビジネスを批判する層は何が何でも
ブームなどなかった、韓流はすべてくだらないと主張しますが
どうも見ないまま理念で言っている印象は受けます。

韓流を取り上げるだけで、唐突にアクセス数がアップするのを見ても
ブームはとっくに去ったとはいえ、根強い支持層はあるのでしょう。

といって、私が韓流に全く無批判かというとそうでもなく
目に余る部分があるのは事実、嫌なら見なければいいという
レベルのことでもなさそうで、ここに踏み込むと韓国という
国家体質にまで踏み込み膨大になるので割愛。
一番看過し難いのが領土問題に韓流芸能人が利用されるところです。

韓流の構造的問題点は知悉しているので韓流全体を持ち上げもしないし
お金を使って、時として韓流スターが母国で行なっている反日活動に
間接的に協力する気も皆無です。と長々しい前置きになりましたが
このご時世、韓流を語ると誤解される部分もあるので。

目が覚めてぼーっとテレビをつけると、不思議なドラマを
やっていることがあり、それが韓流でした。ブームには
全く関心無く見過ごしていたのですが、たまたま見始めたのが
面白く、連ドラをまめに見る習慣のない
私が、時々見るようになったのが韓国ドラマでした。
脚本家としての視線で見ると、いっそう興味深いところがあります。
市場が狭く競争が熾烈なので、脚本家も演出家も俳優も必死、
その気迫が面白いのと、たまにですがそのスキルに唸る
思いをすることもないではありません。

最近では、今朝最終回だった「ビッグ~愛は奇跡~」という作品でした。
コン・ユという主演俳優を知りませんでしたが、兵役明けの
第一作とかで、いかにも韓国らしいのですが、この俳優が
見ているうちに秀逸なんですね。感情表現が繊細で
非常に感性のいい芝居をする。立ち姿が美しいのも、これは
日本人の俳優にない特質で、韓流スターに埋没する人たちは
こういうところなのかなあ、とそういう興味もあって見ていました。
イ・ミンジョンという女優さんも美しく、言ってみれば昭和の
美貌。日本はもうとっくにそこは抜けて、今は米倉涼子さんでしょう?
美貌ではあるのだが、顔のバランスが整っているというより迫力の
美しさ、時代を体現した容貌。
韓流にはまる人たちは古いよき時代の日本の美男美女を韓国人の
役者にノスタルジックに求めているのかもしれませんね。
古いといえば古いのです。竹島をめぐる反日活動家として
問題になったキム・テヒという女優さんも、昭和中期ぐらいの
容貌でした。

「ビッグ」は、30歳の男性医師と19歳の男子高校生の魂が入れ替わる話で
最初医師を愛していたヒロインが、医師の体を持った高校生に惹かれて
愛しあう話です。
入れ替わりものは定番ですが、定番を紋切り型から抜けて書ききるのは
脚本家としては相当腕のいるところなのです。
ソ姉妹という脚本家名が、本当に姉妹かどうか知らないのですが
腕のいい書き手です。点数の辛い私が言うので間違いないですー笑ー

物語の展開を素人としてわくわくしながら見てはいますが、それは職業上の
習性で絶えず分析したり批判したり、いやこのセリフはこうでしょう、
と勝手に推敲したり、あ、このセリフはまいったなあ、と普通の
人が見るより二倍ほど実は見ているかもしれません。セットから
衣装からカメラ・・・・まで。

見ながら、これはラストはどうおさめるのか・・・という好奇心が
高まりました。仕事師としてのそれです。おさめ方がいかにも
難しい展開でしたから。
ヒロインは医師の姿形をした高校生にしだいに惹かれそのことに
悩み反目葛藤と、定石を踏まえつつ実に上手に展開していくのですが
いずれ、医師と高校生は元の体に戻り、それまでの記憶をお互いに
忘れてしまいます。

ここで問題点二つ。

高校生が恋愛期間のことを忘れてしまっては、ヒロイン側からは
悲恋になり、連ドラ的カタルシスがありません。そこは
上手く段階的に処理していて、技術的に感心したところです。

一番、どうするのだろう・・・と好奇心満々だったのが
高校生が元の体に戻った時の芝居の組みかたなんです。
ヒロインは見た目は30歳の医師、中身は19歳少年(劇中で確か二十歳になる)に
恋するわけですが、医師と少年二人が元の肉体に戻った時、見た目は
ヒロインと少年のカップルにいきなり、なるわけなんですね。
理屈では分かるのですが、視聴者的には今まで見かけは30歳医師との
ラブストーリーで引っ張って見せられていたのが、いきなり相手役が
変わるわけです。

脚本家はここが巧みでした。
最終回、少年が元に戻ってからの姿は、傘に隠していっさい見せないのです。ヒロインの
表情を追うだけ。役者の声は、医師の時のまま変えていません。
むー。なるほどと唸りました。実に上手い処理。
そして雨も傘も、初回に伏線として見せている用意周到ぶり。少年との
最初の出会いがそのまま最終回に持って来られる。鮮やかでした。
ホン姉妹は、初回から最終回までおそらく細部に至るまで
構成を組み立ててから書いているように見受けました。
私のように、時には単発さえ構成無しに書く作家から見たら
16話分の最初から最後まで見通した勤勉な書き方は驚異です。
10話が多い日本の連ドラと比べて16話を強引に引っ張って行く
腕力もなかなかです。

・・・・といって、毎回見たわけではないし、実は朝起きがけのこともあり
とろとろまどろみながら見た部分もありで、正確なストーリーラインを
知っているわけでもないのですが、そんなずさんな見方でも
多々、教えてもらうことがありました。

主演のお二人が見た目が心地よいのに加えて品が良いのもよかったです。(韓国ドラマではかなり下卑た芝居をする役者もいないでもないですので)


2 コメント

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BIG (加賀友禅)
2015-03-06 09:24:13
実は BIG の最終回が解りにくいと評判が良くなかったのです。
BIG のイベントの時にコン・ユ氏も気になっていたのか、こんなことを。
あるブロガーさんのブログから抜粋させて頂きます。

「司会の古家さんが、ビッグのラストシーンについての質問をしてくれました。
コン・ユssiは最初のシナリオだと、キョンジュは亡くなることになっていたと話してくれました。
(ただ、魂が入れ替わったままなのか、元に戻ってなくなるのかは不明)
そして、ラスト傘で顔を隠していたのは、これがキョンジュンなのか、ユンジェなのか
見る私たちの受け取り方にゆだねようということだった・・・・と。」

しかしご専門の井沢先生の説明を読ませて頂いて、少し納得ができたような気がいたします。
ありがとうございました。
加賀友禅様 (井沢満)
2015-03-06 10:19:30
>これがキョンジュンなのか、ユンジェなのか
見る私たちの受け取り方にゆだねようということだった・・・・と

と、言うのがそつない公式見解でしょうが(ファンが分かれるのです、どっちであって欲しいのか)

私も身に覚えがあります。男2人が登場、ファンが二手に分かれた作品で。

BIGではあまりにも手法が鮮やかだったので、最初からラストシーンを考えていたのかと思い込んでました。 笑

声が明らかにどっちかでした。どちらかにとれるというほど、あいまいではなく。
私が見たのは日本語吹き替えだったので、原版はわかりませんが、たぶん吹き替えの声は忠実にやると思うので?

これを難解と感じるならナムグン・ミンの「ビューティフルサンデー」なんか、発狂するかもしれません。 笑