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畳数だけで大丈夫?間違いだらけのエアコン選び

2016年02月03日 09時46分20秒 | 市場動向チェックメモ
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/atcl/bldcolumn/14/667329/012800005/


日経アーキテクチュア

松尾和也の脱!なんちゃって省エネ住宅

畳数だけで大丈夫?間違いだらけのエアコン選び
2016/02/03
日経ホームビルダー

みなさんはエアコンをどうやって選んでいますか。木造か鉄筋コンクリート造か、畳数はどのくらいか――だけしかチェックしていないとしたら、過大な能力の機種を選んでいるかもしれません。住宅の断熱性能や気密性能に基づいて適切な能力を計算する方法を、松尾設計室の松尾和也さんに解説してもらいます。(編集部)

 一般的な人であれば、エアコンをこれまで一回以上は購入した経験があると思います。日本冷凍空調工業会によると、家庭用のルームエアコンは年間約850万台が国内で出荷されています(2014年の場合)。

 エアコンのカタログを見ると、詳細な付加機能や畳数表示などが所狭しと書かれています。ただし、畳数表示は、木造と鉄筋コンクリート造くらいの分類で、しかも「暖房:6~7畳」のような表記となっています。これらは、どのメーカーのカタログを見ても共通しています。

 実際には、木造あるいは鉄筋コンクリート造といっても、戸建て住宅か集合住宅かで状況は異なります。仮に集合住宅なら、上下左右の部屋が何部屋に囲まれているのか、断熱性能はどのくらいか、気密性能はどのくらいか、主たる窓の方位はどちらを向いているのか――などによって、同じ畳数でも必要な暖房能力は5倍程度も異なってきます。また、冷房に関しては、窓がどの方位にどれだけあるのか、庇がついているのかいないのか、西日が隣家などで遮られているのか――などによっても大きく異なります。

 暖房、冷房ともにこれだけ不確定要素が多い中で、畳数表示が一般例として通用していることは、実は驚くべきことなのです。しかも畳数表示は、年月の変化と共に変わってきたかというと、私が知る限りここ20年は何ら変わっていません。

 エアコンの燃費は大幅に向上しましたが、定格の暖房能力や冷房能力に関しては20年前も今も同じ能力です(気流制御などの細かな機能の差、最大能力の差は除きます)。この20年間で住宅の断熱性能や気密性能は大幅に向上したのに、畳数表示と必要能力の関係は見直されていないようです。これは、年間850万台ものエアコンが適切な負荷計算をしなくても売れているが故の「触れてはならないタブー」であったように思います。


松尾設計室の設計例。2階リビング、全面勾配天井だが、14畳用のエアコン1台で2階全て(58.79m2)を暖房できるように設計した。容量的には1台で1階を含めて全館を賄えるが、2階に設置したため、2階の冷暖房用として使っている(写真:松尾和也)

エアコンのカタログの見方

 では、ここからエアコンの能力を具体的にひもといていきたいと思います。


主なエアコンのカタログ値の例(資料:松尾和也)
 まず、一般的なエアコンのカタログを見ると、上記のように表示しています。「能力(kW)」は、「そのエアコンが投入することができる暖房もしくは冷房の標準的な時間あたりの熱量」を表します。

 暖房能力の例で言うと、定格能力(中間的な能力のこと)は2.5kWと記載しています。これは2500Wと同じ意味になります。カッコ書きで(0.7~5.4)と書いてあるのは、エアコンはインバーター制御で最小運転から最大運転まで変動しながら動く機械だからです。その最小時の暖房能力が0.7kW(700W)、最大時が5.4kW(5400W)であることを示しています。

 次に、暖房の定格消費電力を見てみましょう。415Wと記載しています。これは2500Wの暖房能力を消費電力415Wで引っ張ってこられることを表しています。つまり、消費電力の6倍もの熱を室内にもたらすことを意味します。

 原理は、外気中の熱量を圧縮するために電力を使っており、この6倍という数字が暖房効率(暖房COP)となります。暖房効率は2010年頃までは暖房COPで表示していました。今でも表から割り算すれば計算できますが、表の下の方にある「通年エネルギー消費効率(APFともいいます)」に表記を変更しました。

 通年エネルギー消費効率は、従来のCOPのように暖房と冷房を分けて考えるのではなく、冷房除湿は6月2日から9月21日までの3.6カ月間を27℃、暖房は10月28日から4月14日までの5.5カ月間を20℃で運転した場合の通年での効率を意味しています。最新型の機種では、この数字が7を超える超高性能な製品も販売されています。

 しかし、車の実燃費と同様に、実際はカタログ数字どおりに能力を発揮することはまずありません。暖房時は外気温が低いほど、冷房時は外気温が高いほど、実際のAPFは悪くなります。それでも一つの目安として、カタログ効率の70~80%は発揮することが多いので、やはりエアコンというのはすさまじく優秀な機械なのです。

 これでエアコンのカタログの見方が理解できたと思います。表からは、「6畳用には暖房で2500W、冷房で2200Wがそれぞれ必要になる」とメーカーは考えていることが読み取れます。ただ、この考え方は先述したように、最低でも20年以上は変更されていないと思われます。

必要暖房能力の概算式で検証

 冷房は日射条件によって大きく変化するので、単純計算がほぼ不可能です。よって今回は暖房に絞って検証してみます。

 必要暖房能力に関しては、断熱性、気密性、日射取得の3項目が大きく効いてきます。ただ、冷房と同様に日射取得は建物によって大きく状況が異なるので省略して考えます。とはいえ冷房とは違い、暖房で日射を無視することは不利側で容量計算することになるので、むしろ安全率は高くなります。

 今回、古い住宅でも通用する必要暖房能力の独自の概算式を新たにつくりました。

必要暖房能力=(Q値+C値/10)×その部屋の面積×(設定室温-その地域の年間最低温度)

 Q値は熱損失係数、C値は相当隙間面積を表します。建物の年式ごとに、この概算式を使って必要暖房能力を計算してみました。なお、今回は、内部発熱はなし、設定室温24℃、最低外気温0℃で計算しています。場所は、旧Ⅳ地域の東京を想定しています。


エアコンの必要暖房能力を、「(Q値+C値/10)×その部屋の面積×(設定室温-その地域の年間最低温度)」で計算した。設定条件は、内部発熱はなし、設定室温24℃、最低外気温0℃、旧Ⅳ地域の東京。なお、暖房最大能力はメーカー、機種によって大きく異なる(資料:松尾和也)
 概算式に、Q値、C値、面積、温度を入れて計算しました。気密性能の目安は、一般的に気密性能が世代を追うごとに上がってきているので、その変遷ごとにC値を変化させました。

 「1980年(昭和55年)より前の無断熱」は激寒住宅です。国土交通省によると、無断熱住宅は現存する住宅の約4割を占めると言われており、築年数の古さから、激寒住宅に高齢者が多く住んでいることが想定できます。

 計算すると驚くべき結果となりました。暖房定格能力(オレンジ色で塗りつぶした部分)と比較すると、どの畳数でも激寒住宅の値(黄色で塗りつぶした部分)と極めて近い結果が出てくるのです。暖房定格能力に対する激寒住宅の必要暖房能力の割合の平均値は、実に94%でした(100%で完全一致となります)。

 しかも、主なエアコンの暖房最大能力は暖房定格能力の倍ほどもあります。6畳用エアコンに関しては、激寒住宅においてもまだ2.4倍もの余力を残していることが読み取れます。

 とはいえ、断熱性も気密性も低い激寒住宅では、実際にはこの計算どおりにはいきません。熱量の収支だけを見たらこういった結果になるのですが、気密性が低すぎる結果、暖気は上からほとんど抜けてしまい、足元が温まることはありません。要するに、エアコンではどうにもならない住宅なのです。これはいくら大きな機種を選んでも、そもそもエアコンだけでは効かないことを意味します。そのような住宅をベースにエアコンメーカーは畳数表示を決めていることが推測できます。

次世代省エネ基準の住宅はどうか?

 次に、断熱性能は「1999(平成11)年基準」、気密性能は「1999~2016年」の値を見てください。これが、今まで「次世代省エネ基準」と呼ばれ続けている住宅の典型的な例です。現時点で、建売住宅を含めて新築住宅の約半分がこのレベルを達成していると言われています。

 この住宅の6畳で、必要な暖房能力は739Wと計算されています。18畳で2224Wです。暖房定格能力は2500Wなので、計算上は6畳用エアコンでも18畳に事足ります。仮に1.8畳用のエアコンがあるのなら、この住宅の6畳はそれで対応できます。

 しかし、実際は計算どおりにエアコンを選定するのは無理があります。まず、必要冷房能力を計算すると、ほとんどの住宅で日射遮蔽が適切に検討されていないために、冷房能力が足りなくなってしまいます。たとえ暖房の検討で定格能力が小さくて済む場合でも、です。

 もちろん暖房専用として使うなら、計算通りの相当小さな機種でも大丈夫です。ただ、C値が4くらいのいわゆる「中気密」と呼ばれるレベルの住宅では、暖気が上から抜け、その分だけ下から冷気が侵入してきます。部屋全体としての暖房能力は満たしても、足元が寒くなってしまい住まい手の満足感は得にくくなります。

 なお、こうした現象は表示畳数どおりの機種を選んでも同じことです。先ほど述べた激寒住宅ほどではないにせよ、エアコンだけでは対応が難しいことに変わりはありません。

 同じ断熱性能であっても、C値が1まで改善すると状況は大きく変わってきます。例えば6畳の場合、計算結果は739W(C値4.1)と665W(C値1)で少ししか変わりませんが、実際には気密性が向上して足元から冷気が引き込まれにくくなるので、熱量の差では表せない満足度の向上が得られます。人によっては暖かく感じるがゆえに、暖房設定温度を下げたり、稼働時間を短くしたりすることで、結果として数値以上の差がつく可能性が高まります。エアコンだけで十分な満足が得られるようになり、強風による振動がなく、音も静かで不快さもほとんど感じません。


松尾設計室の設計例。1階の階段下に床下エアコンを設置した。吹き抜けもあるが、延べ面積133.31m2(約81畳)を14畳用のエアコン1台で全館暖房できるように設計した。この住宅のQ値は1.29、C値は0.5(写真:松尾和也)

正しいエアコンの選び方

 最後にHEAT20の値を説明します。日本の学識経験者や大手メーカーなどが連携してつくった民間団体「HEAT20」が推奨する基準で、G1とG2が指標となります。今のところ、国内で通用する指標としては、G2が最高水準となります。

 G2の8畳を見ると、必要な暖房能力は539Wでしかありません。一般的な住宅が40坪(80畳)だとすると、10倍しても5390Wがあれば、日射や内部発熱が一切なくても家中を24℃に保てます。定格能力で見ると、16畳用のエアコン1台で十分だということになります。これは、これまでの経験上、昼間にドアなどを開けていて家中に空気が循環できるようになっていれば、余裕で実現可能です。

 最大能力で見れば6畳用エアコンでも対応できますが、お勧めしません。なぜなら、エアコンは定格能力、もしくは定格能力より少し余裕があるくらいで運転するのが最も効率が良いと言われているからです。実際にカタログ値で計算すると、「最大運転時の暖房COP=5400/1360=3.97」となり、定格運転時の6よりもかなり落ちてしまいます。

 その一方で、ほとんどの人は比較的新しい住宅にも関わらず、実際の畳数どおりか、一回り上の機種を選んでいると思います。しかし、これは非常にもったいないと同時に、過大機種を弱運転しすぎることにもつながり、燃費まで悪くなっていると考えられます。

 エアコンのAPF向上競争はそろそろ限界に近づいていると言われています。エアコン業界がなすべきことは、APFを0.1上げることではなく、住宅の状況に合わせて適切な能力を個別計算することではないでしょうか。

 ただ、エアコンが性能の割に安すぎるのと、販売台数が多すぎることから、メーカーが自ら方針を変えることは難しいと思います。可能性があるとすれば、計算ができる優秀な設計者にエアコンを選択してもらうか、自己責任において顧客自身が計算するしか方法がなさそうです。

 エアコンの選定方法を指南するウェブサイト、家電のプロと言われる評論家、家電販売店のベテラン販売員などで、住宅の断熱性能や気密性能に基づいて自ら定格能力を計算している人を見たことがありません。逆に「余裕をみて選ぶように」というアドバイスをずっと続けているのが実情ではないでしょうか。

 エアコン販売に携わるプロは、断熱性能や気密性能などの知識を持たないだけでなく、実際の住宅を見て断熱性能や気密性能を尋ねることもないと思います。極めて当たり前の話なのですが、仮に知識を持っていたとしても、容量の小さな機種を売ることは売上が下がり、冷暖房の効果が得られなかった時はリスクを犯すことになります。そのような理由から、定格能力が小さな機種を選定することはほぼないはずです。

 年間850万台のほとんどのエアコンにおいて、このような残念な選択がなされていることで、「台数分×過大な容量分」だけ無駄なイニシャルコストと過大なランニングコスト、エネルギーが浪費されています。エアコンメーカー以外は誰も喜ばない現実です。せめて新築住宅を供給する設計者くらいは、適切な選択ができるようになってほしいと思います。

松尾 和也(まつお・かずや)
松尾設計室代表、パッシブハウスジャパン理事
松尾 和也(まつお・かずや) 松尾 和也1975年兵庫県生まれ、98年九州大学建築学科卒業(熱環境工学専攻)。日本建築家協会(JIA)登録建築家、一級建築士、APECアーキテクト。

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