クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

集中したいとき、脳に効くのはどんな音?

2024年05月07日 | ウラ部屋
夜、急遽コインランドリーへ行く用事ができた。
一人、洗濯物と原稿(ゲラ)を抱えてコインランドリーへ足を運ぶ。

何度か使ったことのある店だ。
以前、大音量でマンボが流れていたのを覚えていた。
あれを聞きながら校正するのか……。
いささか気が重かった。

夜だから車内で作業はできない。
家に戻るには微妙な待ち時間である。
仕方なく、店内のベンチに腰掛けてゲラを広げた。

いまの文量から、30~50枚削らなければならない。
それが編集者から出された課題だった。
我ながら、小難しいものを書いてしまったと思う。
情報量が多い。
ゆえに、重複しているところ、説明しすぎている部分、回りくどい表現、もったいぶった言い回しなどを優先して削除していく。

店内にはマンボが流れていた。
店内に客はまばらで、乾燥機から洗濯物を取り出しては去っていく。
話し声も笑い声もなく、ただマンボだけが流れていた。

すると、思いのほか原稿の文字が頭に入っていくことに気付く。
さほど悩まず文章を削除し、前後の文脈を調整する。
脱字、誤字も目に留まる。
眠くなることもなく、スイスイ進んでいく。

マンボのリズミカルな曲調が背中を押した。
歌詞は日本語ではない。
曲も初めて耳にするもの。
意外に相性がいいのかもしれない。
気が付けば洗濯と乾燥が終わっていた。
洗濯物をもっと持ってくればよかったとさえ思った。

人の脳は不思議なもので、無音より程よい雑音があると集中力が高まるという。
図書館派の人が自宅を選ばないのは、その「雑音」ゆえではないだろうか。
少なくとも、僕は「雑音」と「蔵書」という環境を求めて図書館へ足を運んでいる。

そのような「雑音」を提供してくれる動画がある。
図書館内で聞こえてくる音や、勉強している音をユーチューブで配信しているのだ。

便利な世の中になったものだ。
ユーチューブの「ユ」の字もなかった学生時代、こんな動画があれば自宅でも集中できたかもしれない。
また、この手の動画は、「雑音」が脳にもたらす効果を意識している人たちが配信しているのだろう。

最近気に入っているのは、「生物学の教授の夜の書庫」と「禁断の書庫」である。
物を書く音、ページを捲る音、椅子の軋む音、雨音、コップに何かを注ぐ音……。
ビジュアル的には静止画のようなものである。
しかし、その脳内では知識や情報、思考が混ざり合い、化学反応を起こしてペン先から迸っている。
まるで火花が散っているように感じられる。

静かなのにロック。
澄んだ空気なのに熱い。
とても心地よい。
音が流れているだけだが、心をかき立てられるのと同時に癒される。

というわけで、集中力を高める音として使っている。
図書館の机でも、ときどきイヤフォンをして流している。
「禁断の書庫」は、いささか物語仕立てで心くすぐられる。
心憎い演出だ。

集中力を高める音は人それぞれだろう。
テレビやラジオを聴きながら勉強しているという同級生がいた。
流す音楽も多種多様で、流行曲や洋楽、クラシックや昔の曲など、人によって異なる。
これまでの狭い人付き合いの中で、マンボを聴いて机に向かっているという人はいなかった。
でも、皆無ではないだろう。

コインランドリーでマンボを聴きながらゲラが進んだのは予想外だった。
コインランドリーのエンジン音もよかったのではないか。
まばらな客が無言で出す作業音も……。
勢いよく回る洗濯物の前、
まだ知らぬ自分との出会いだったかもしれない。

(参考)
「生物学の教授の夜の書庫」
https://www.youtube.com/watch?v=a7Sp4Ph0hk0&t=31s

「禁断の書庫」
https://www.youtube.com/watch?v=PTvjtXZT-MY&t=1321s
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 羽生の“公民館”はいつできた... | トップ | なぜ北条氏は羽生城を力攻め... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ウラ部屋」カテゴリの最新記事