クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

田山花袋作『田舎教師』

2006年02月28日 | レビュー部屋
田山花袋の『田舎教師』を読みました。
はじめてこの作品を手に取ったのは中学三年生で、
当時はちっとも面白くなかったのを覚えています。
改めて読み直したのは十八歳で、
『田舎教師』とはこんなものかという程度の感想でした。
内容よりも、読んだという事実が欲しかったのだと思います。
そして今回二十七歳になって読み返したのですが、
びっくりするほど読み応えがありました。
というのも、郷土史家の視点から見ると、この小説は資料の宝庫だからです。
小説の中に出てくる羽生の景色は、いまはもうありません。
主人公の林清三が歩いた四里の道もみなアスファルトに覆われています。
また、本作品に描かれている田舎の風土もすでに失われているものでしょう。
田山花袋は田舎に埋もれていく青年の視点から、
日露戦争を描きたかったのかもしれません。
ところで、主人公の林清三は田舎の教師として埋もれていくことを嘆き、
若くして死んでいった人物です。
ぼくには清三のネガティブな思考には、共感はできませんでした。
絶望するほど舞台である羽生は田舎だったのかとも思ってしまいます。
作風は変わってしまうかもしれませんが、
清三がもっとポジティブだったら、
彼の人生ももっと違っていただろうと考えずにいられません。
だとすると、幸せか不幸せかなど、
実は紙一重なのかもしれないと思ったりもします。
コメント
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