遅れる仮設住宅建設の課題(続)
引き続いて「しんぶん赤旗」の記事より転載です。
交流、介護も課題
岩手県大船渡市の中学校の敷地内には70戸のプレハブ仮設住宅が並びます。
5月下旬に入居した小川武さん(74)は「集落ごとに入居でき、顔なじみも多いので安心して暮らせる」と話します。その一方で、生活必需品を購入するために車で20分くらいかかるなど、買い物の不便さを感じています。「車を持たない人もいるし、ガソリン代もままならない。仮設店舗のようなものが設置できないものでしょうか」
阪神淡路の教訓
小川さんは、住民同士が交流する場が身近にないことを指摘します。
大船渡市でも29カ所の仮設住宅のうち、集会所があるのは5カ所、談話室は8カ所のみです。市の担当者は「すべての仮設住宅に設置したいという思いはあるが、敷地の制約があって難しい」と話します。近くに学校やコミュニティーセンターがある住宅ではその活用で代替するとしています。
国は50戸以上の仮設住宅に集会所などを設置することを「目安」として示しています。
仮設住宅における住民の交流施設の重要性は、阪神・淡路大震災後に多発した仮設住宅内の孤独死を生まないという教訓に基づくものです。「小さくても住民が顔を合わせる場所がほしい」という要望は、各地の仮設住宅の住民からも上がっています。しかし、設置するかどうかは自治体任せというのが政府の姿勢です。設置は進んでいません。
高齢者や介護の必要な住民への対応も課題です。
進まぬケア付き
仮設住宅に暮らしながら介護サービスを受けられるケア付き仮設住宅など、福祉仮設住宅の設置は進んでいません。宮城県でグループホーム型施設の建設計画があるのは仙台市内のーカ所のみです。
ケア付き仮設住宅の設置には、事業者の選定や運営も必要です。そのことが自治体には重荷になります。ある自治体の担当者は「国は施設を造るところまで面倒をみても、その後のことは財政面も含めてすべて自治体任せ。財源の厳しい中では躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない」と指摘します。
福祉仮設住宅の設置が進まないなか、自治体が独自の判断で取り組みを強めている例もあります。岩手県の沿岸部、大きな被害を受けた大槌町では、グループホーム型施設を2カ所、デイサービス型施設を4カ所計画。7月上旬には完成の見込みです。担当者は「仮設住宅入居者に高齢者が多くなるのは明らか。要望が出るのを見越して対応することにした」と話します。
「室内で車いすが使えない」「段差をなくすスロープが付いていなかった」といったバリアフリー化を求める声も広がっています。
仮設住宅への入居が決まっても生活の不安からに避難所にとどまる人が増えています。仮設住宅では電気・水道代が自己負担です。食料などの生活支援がなくなり、通勤・通学の利便が悪くなることにも被災者は不安を募らせています。
国のきめ細かな支援が不可欠になっています。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年6月16日付
地元産木材に注目
地元産の木材を使った木造仮設住宅が注目を集めています。岩手県住田町の事業です。
内陸部の同町には、沿岸の陸前高田市や大船渡市などから約600人が避難しています。5月末までに110戸の仮設住宅を建設しました。間取りは2DK、すべて1戸建てです。
外壁、室内の壁や床などに特産の気仙杉をふんだんに使っています。建設費も1戸250万円ほど。プレハブと変わりありません。
6月から入居した森良子さん(68)は「木の香りがほのかに漂い、やすらぎます。プレハブにはない良さがありますね」と話します。
岩手県住田町が建設した木造仮設住宅
一刻も早く救う
大船渡市から避難した60歳代の女性も「山小屋風で気に入っています。広々としていて壁も有効
に使える」と満足そうな表情を見せました。
住田町は町の面積の92%を山林が占め、林業が盛んな地域です。
町には木の切り出しから製材、加工、建設まで木材に関係する業種がすべてそろっています。宮大工の伝統を受け継ぐ気仙大工も活躍しています。人口6300人のうち1割が木材関連の仕事に従事しています。
そうした地域の特性と技術の結晶が木造仮設住宅です。180棟ある町営住宅もすべて木造で建設してきました。
今回、町は独自の予算で木造仮設住宅を建設することになりました。「震災前から木造の仮設住宅を考えていた」と多田欣一町長。「隣接する自治体の人たちを一刻も早く救いたいという思いからの決断」と振り返ります。
建設工事を担うのは地元の建設業者。その一つ、住田住宅産業は町も出資する第三セクターの会社です。
佐々木一彦代表取締役は「軸組み工法という合板を使わない手作業でていねいに造りあげています。被災者に木のぬくもりと柔らかさを感じてもらえたらありがたい」と話します。
住田町の木造町営住宅
「循環型の経済」
木造は解体後も再利用できます。製材で出る木材のくずはペレットとして燃料に使えます。町は再生可能エネルギーの活用にも力を入れています。
町内にある木工団地の木材乾燥用機械はすべて木材端材、木くずを使ってまかなわれています。
多田町長は「町の貴重な資源である木材を有効に使うことが森を守ることになる。ヨーロッパに見るような循環型経済で地域を活性化していきたい」と期待を込めます。
住田町の取り組みについて、九州や四国など各地の自治体関係者の見学が絶えないといいます。著名な建築家や写真家からの問い合わせも。個人からも木造仮設住宅を譲ってほしいとの相談が相次いでいます。町は陸前高田市のキャンプ場にも木造仮設住宅を建設する予定です。
岩手県では1万4000戸の仮設住宅建設予定のうち、約2500戸を地元建設業者に発注。その多くが木造づくりです。
小さな町の取り組みが県内外に広がっています。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年6月17日付掲載
(おわり)
仮設住宅への入居は、「プライバシーのある生活」「やっとゆっくり寝れる」などストレスから解放される反面、避難所で支給されていた食事などが自前になることで不安を抱えて「仮設に移りたくない」という人もいるといいます。
実際、今回の震災で住まいだけでなく職も失い収入が断たれている人もいます。仮設住宅に移っても食事の提供や健康・メンタル面でのケアは継続しなければなりません。
また、仮設住宅の建設に地元の建材、地元業者に頑張ってもらうことは地元産業の復興につながります。
ぜひ応援してほしいですネ。
引き続いて「しんぶん赤旗」の記事より転載です。
交流、介護も課題
岩手県大船渡市の中学校の敷地内には70戸のプレハブ仮設住宅が並びます。
5月下旬に入居した小川武さん(74)は「集落ごとに入居でき、顔なじみも多いので安心して暮らせる」と話します。その一方で、生活必需品を購入するために車で20分くらいかかるなど、買い物の不便さを感じています。「車を持たない人もいるし、ガソリン代もままならない。仮設店舗のようなものが設置できないものでしょうか」
阪神淡路の教訓
小川さんは、住民同士が交流する場が身近にないことを指摘します。
大船渡市でも29カ所の仮設住宅のうち、集会所があるのは5カ所、談話室は8カ所のみです。市の担当者は「すべての仮設住宅に設置したいという思いはあるが、敷地の制約があって難しい」と話します。近くに学校やコミュニティーセンターがある住宅ではその活用で代替するとしています。
国は50戸以上の仮設住宅に集会所などを設置することを「目安」として示しています。
仮設住宅における住民の交流施設の重要性は、阪神・淡路大震災後に多発した仮設住宅内の孤独死を生まないという教訓に基づくものです。「小さくても住民が顔を合わせる場所がほしい」という要望は、各地の仮設住宅の住民からも上がっています。しかし、設置するかどうかは自治体任せというのが政府の姿勢です。設置は進んでいません。
高齢者や介護の必要な住民への対応も課題です。
進まぬケア付き
仮設住宅に暮らしながら介護サービスを受けられるケア付き仮設住宅など、福祉仮設住宅の設置は進んでいません。宮城県でグループホーム型施設の建設計画があるのは仙台市内のーカ所のみです。
ケア付き仮設住宅の設置には、事業者の選定や運営も必要です。そのことが自治体には重荷になります。ある自治体の担当者は「国は施設を造るところまで面倒をみても、その後のことは財政面も含めてすべて自治体任せ。財源の厳しい中では躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない」と指摘します。
福祉仮設住宅の設置が進まないなか、自治体が独自の判断で取り組みを強めている例もあります。岩手県の沿岸部、大きな被害を受けた大槌町では、グループホーム型施設を2カ所、デイサービス型施設を4カ所計画。7月上旬には完成の見込みです。担当者は「仮設住宅入居者に高齢者が多くなるのは明らか。要望が出るのを見越して対応することにした」と話します。
「室内で車いすが使えない」「段差をなくすスロープが付いていなかった」といったバリアフリー化を求める声も広がっています。
仮設住宅への入居が決まっても生活の不安からに避難所にとどまる人が増えています。仮設住宅では電気・水道代が自己負担です。食料などの生活支援がなくなり、通勤・通学の利便が悪くなることにも被災者は不安を募らせています。
国のきめ細かな支援が不可欠になっています。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年6月16日付
地元産木材に注目
地元産の木材を使った木造仮設住宅が注目を集めています。岩手県住田町の事業です。
内陸部の同町には、沿岸の陸前高田市や大船渡市などから約600人が避難しています。5月末までに110戸の仮設住宅を建設しました。間取りは2DK、すべて1戸建てです。
外壁、室内の壁や床などに特産の気仙杉をふんだんに使っています。建設費も1戸250万円ほど。プレハブと変わりありません。
6月から入居した森良子さん(68)は「木の香りがほのかに漂い、やすらぎます。プレハブにはない良さがありますね」と話します。
岩手県住田町が建設した木造仮設住宅
一刻も早く救う
大船渡市から避難した60歳代の女性も「山小屋風で気に入っています。広々としていて壁も有効
に使える」と満足そうな表情を見せました。
住田町は町の面積の92%を山林が占め、林業が盛んな地域です。
町には木の切り出しから製材、加工、建設まで木材に関係する業種がすべてそろっています。宮大工の伝統を受け継ぐ気仙大工も活躍しています。人口6300人のうち1割が木材関連の仕事に従事しています。
そうした地域の特性と技術の結晶が木造仮設住宅です。180棟ある町営住宅もすべて木造で建設してきました。
今回、町は独自の予算で木造仮設住宅を建設することになりました。「震災前から木造の仮設住宅を考えていた」と多田欣一町長。「隣接する自治体の人たちを一刻も早く救いたいという思いからの決断」と振り返ります。
建設工事を担うのは地元の建設業者。その一つ、住田住宅産業は町も出資する第三セクターの会社です。
佐々木一彦代表取締役は「軸組み工法という合板を使わない手作業でていねいに造りあげています。被災者に木のぬくもりと柔らかさを感じてもらえたらありがたい」と話します。
住田町の木造町営住宅
「循環型の経済」
木造は解体後も再利用できます。製材で出る木材のくずはペレットとして燃料に使えます。町は再生可能エネルギーの活用にも力を入れています。
町内にある木工団地の木材乾燥用機械はすべて木材端材、木くずを使ってまかなわれています。
多田町長は「町の貴重な資源である木材を有効に使うことが森を守ることになる。ヨーロッパに見るような循環型経済で地域を活性化していきたい」と期待を込めます。
住田町の取り組みについて、九州や四国など各地の自治体関係者の見学が絶えないといいます。著名な建築家や写真家からの問い合わせも。個人からも木造仮設住宅を譲ってほしいとの相談が相次いでいます。町は陸前高田市のキャンプ場にも木造仮設住宅を建設する予定です。
岩手県では1万4000戸の仮設住宅建設予定のうち、約2500戸を地元建設業者に発注。その多くが木造づくりです。
小さな町の取り組みが県内外に広がっています。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年6月17日付掲載
(おわり)
仮設住宅への入居は、「プライバシーのある生活」「やっとゆっくり寝れる」などストレスから解放される反面、避難所で支給されていた食事などが自前になることで不安を抱えて「仮設に移りたくない」という人もいるといいます。
実際、今回の震災で住まいだけでなく職も失い収入が断たれている人もいます。仮設住宅に移っても食事の提供や健康・メンタル面でのケアは継続しなければなりません。
また、仮設住宅の建設に地元の建材、地元業者に頑張ってもらうことは地元産業の復興につながります。
ぜひ応援してほしいですネ。