経済の迷宮⑦ 監査法人が“節税”手引き
「税務部門の人たちが顧客の節税を手伝うサービスをしているのは以前から知っていたけど、近ごろの実情はあまりにひどすぎる」
著書『〈税金逃れ〉の衝撃』で「国家をむしばむ脱法者」を批判した深見公認会計士事務所の深見浩一郎代表はこう語ります。2001年に独立する以前、大手国内監査法人の監査部門で働いていました。大手都市銀行や外資系コンサルティング会社に勤めたこともありました。
「当時よく耳にしたのは、海外の税制を使って相続を有利にする方法ですね。海外に資産を持っていき、税金をあまり払わずに、より多くの資産を子どもたちに移転するというサービスです」
香港とオランダ
日本の監査法人も盛んにアドバイスを行っているといいます。
「同じ系列の会社の中に監査部門と税務部門があって、税務部門は節税のアドバイスをする。いくつも顔を持っているわけですよ。会社が違っても中身は一つですから、同じビルに入っていて内線電話でつながったりする。自分の監査のお客さんにはアドバイスできないけどね。自分の墓穴を掘るようなことになってしまうから」
相手企業が監査の顧客ではない場合に限り、監査で問題になりかねない際どい節税方法を手引きするというわけです。つまり、日本の富裕層や大企業も大々的に税逃れをしているのですか―。尋ねてみると即答でした。
「やっています、やっています。個人もそうだけど、法人もやりすぎです」
大手銀行で地域統括会社への支援を担当してきたA氏は、日本企業が海外の統括拠点にしているのはシンガポールだけではないと打ち明けます。
「アジアでは香港、ヨーロッパではオランダが多いですね。欧米企業はアイルランドを使います。でも日本企業はオランダとなじみが深い。オランダ大使館の勧誘が盛んだった経緯があるからです」
名前が挙がったのはどれもタックスヘイブン(租税回避地)として知られる国・地域です。こうした国・地域を経由した多国籍企業の税逃れの規模は、わずか20年ほどの間に大きく膨れ上がりました。国境をまたぐ投資のいびつな膨張が、動かぬ証拠です。
世界各国が国外から受け入れる対内直接投資の残高総額は、1995年から2014年までの20年間で35兆㌧も増え、13倍になりました。しかもこの間に直接投資の受入国・地域として急浮上したのは経済規模の小さなタックスヘイブンでした。(表)
95年時点では、対内直接投資の残高が大きいのは米・仏・英など経済規模の大きい国でした。ところが14年にはオランダが2位、ルクセンブルクが3位にランクイン。香港は6位、シンガポールは12位、アイルランドは13位に入りました。
対内直接投資残高の順位と名目GDP比(倍)
※財務省資料から作成。色をつけたのは自国の経済規模より直接投資の受入額が多い国・地域
GDP超す流入
これらの国・地域は製造・販売などの実質的な事業が行われる現場ではありません。現にルクセンブルクは名目国内総生産(GDP)の58倍もの直接投資を受け入れています。香港は6倍、オランダは5倍です。多くの場合、資金の通り道(導管)になるだけで、実際の事業は他国で営まれるのです。
資金が流入すると同時に流出している事実からも、そのことは明白です。国外に対して行われる対外直接投資の額も、ルクセンブルクでは名目GDPの68倍に達しています。香港とオランダでは6倍です。
これらの国・地域に共通するのは、法人に対する低税率や優遇税制です。利益を移転して他国での課税を逃れるための、多国籍企業の道具になっているのです。深見代表は強調します。
「自由な資本移動と一体化した税逃れの規模と巧妙さは想像の域を超えています。もはや国ごとにばらばらの対応をしていたのでは解決できません。国家の壁を乗り越えた規制の導入が必要です」(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年10月14日付掲載
直接投資先。20年前と比べて中国が投資先として上位に上がってきているのは分かります。
ルクセンブルク、香港、シンガポールなどが上位に。明らかにタックスヘイブンですね。
もともと上位だったオランダやスイス、ベルギーなども質が変わっているのでは。
「税務部門の人たちが顧客の節税を手伝うサービスをしているのは以前から知っていたけど、近ごろの実情はあまりにひどすぎる」
著書『〈税金逃れ〉の衝撃』で「国家をむしばむ脱法者」を批判した深見公認会計士事務所の深見浩一郎代表はこう語ります。2001年に独立する以前、大手国内監査法人の監査部門で働いていました。大手都市銀行や外資系コンサルティング会社に勤めたこともありました。
「当時よく耳にしたのは、海外の税制を使って相続を有利にする方法ですね。海外に資産を持っていき、税金をあまり払わずに、より多くの資産を子どもたちに移転するというサービスです」
香港とオランダ
日本の監査法人も盛んにアドバイスを行っているといいます。
「同じ系列の会社の中に監査部門と税務部門があって、税務部門は節税のアドバイスをする。いくつも顔を持っているわけですよ。会社が違っても中身は一つですから、同じビルに入っていて内線電話でつながったりする。自分の監査のお客さんにはアドバイスできないけどね。自分の墓穴を掘るようなことになってしまうから」
相手企業が監査の顧客ではない場合に限り、監査で問題になりかねない際どい節税方法を手引きするというわけです。つまり、日本の富裕層や大企業も大々的に税逃れをしているのですか―。尋ねてみると即答でした。
「やっています、やっています。個人もそうだけど、法人もやりすぎです」
大手銀行で地域統括会社への支援を担当してきたA氏は、日本企業が海外の統括拠点にしているのはシンガポールだけではないと打ち明けます。
「アジアでは香港、ヨーロッパではオランダが多いですね。欧米企業はアイルランドを使います。でも日本企業はオランダとなじみが深い。オランダ大使館の勧誘が盛んだった経緯があるからです」
名前が挙がったのはどれもタックスヘイブン(租税回避地)として知られる国・地域です。こうした国・地域を経由した多国籍企業の税逃れの規模は、わずか20年ほどの間に大きく膨れ上がりました。国境をまたぐ投資のいびつな膨張が、動かぬ証拠です。
世界各国が国外から受け入れる対内直接投資の残高総額は、1995年から2014年までの20年間で35兆㌧も増え、13倍になりました。しかもこの間に直接投資の受入国・地域として急浮上したのは経済規模の小さなタックスヘイブンでした。(表)
95年時点では、対内直接投資の残高が大きいのは米・仏・英など経済規模の大きい国でした。ところが14年にはオランダが2位、ルクセンブルクが3位にランクイン。香港は6位、シンガポールは12位、アイルランドは13位に入りました。
対内直接投資残高の順位と名目GDP比(倍)
順位 | 1995年 | 2014年 |
1 | アメリカ 0.15 | アメリカ 0.36 |
2 | フランス 0.21 | オランダ 4.95 |
3 | イギリス 0.18 | ルクセンブルク 58.20 |
4 | カナダ 0.32 | 中国 0.26 |
5 | オランダ 0.26 | イギリス 0.73 |
6 | ベルギー 0.39 | 香港 5.64 |
7 | オーストラリア 0.29 | ドイツ 0.36 |
8 | スペイン 0.18 | スイス 1.64 |
9 | ドイツ 0.04 | フランス 0.38 |
10 | スイス 0.25 | ベルギー 1.97 |
11 | イタリア 0.06 | カナダ 0.53 |
12 | スウェーデン 0.13 | シンガポール 2.96 |
13 | デンマーク 0.16 | アイルランド 3.46 |
GDP超す流入
これらの国・地域は製造・販売などの実質的な事業が行われる現場ではありません。現にルクセンブルクは名目国内総生産(GDP)の58倍もの直接投資を受け入れています。香港は6倍、オランダは5倍です。多くの場合、資金の通り道(導管)になるだけで、実際の事業は他国で営まれるのです。
資金が流入すると同時に流出している事実からも、そのことは明白です。国外に対して行われる対外直接投資の額も、ルクセンブルクでは名目GDPの68倍に達しています。香港とオランダでは6倍です。
これらの国・地域に共通するのは、法人に対する低税率や優遇税制です。利益を移転して他国での課税を逃れるための、多国籍企業の道具になっているのです。深見代表は強調します。
「自由な資本移動と一体化した税逃れの規模と巧妙さは想像の域を超えています。もはや国ごとにばらばらの対応をしていたのでは解決できません。国家の壁を乗り越えた規制の導入が必要です」(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年10月14日付掲載
直接投資先。20年前と比べて中国が投資先として上位に上がってきているのは分かります。
ルクセンブルク、香港、シンガポールなどが上位に。明らかにタックスヘイブンですね。
もともと上位だったオランダやスイス、ベルギーなども質が変わっているのでは。
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