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ドヴォルザーク:『チェロ協奏曲』の名盤

2009年12月15日 14時10分07秒 | 私の「名曲名盤選」




 5月2日付の当ブログに「名盤選の終焉~」と題して詳しく趣旨を書きましたが、断続的に、1994年11月・洋泉社発行の私の著書『コレクターの快楽――クラシック愛蔵盤ファイル』第3章「名盤選」から、1曲ずつ掲載しています。原則として、当時の名盤選を読み返してみるという趣旨ですので、手は加えずに、文末に付記を書きます。本日分は「第31回」です。


◎ドヴォルザーク/チェロ協奏曲

 クリスティチーヌ・ワレフスカ/ギブソン盤は驚異的な演奏だ。通り過ぎようとする者をその場に留め置かずには済まさない、凄じい気迫と説得力。〈驚天動地〉とは正にこのような演奏にふさわしい言葉だ。
 豊麗な音がほとばしり前進するワレフスカの強靱な感情表現は、この曲が、今この場で彼女自身によって産み出されつつあるかのような一体感となって呼吸している。情緒に耽溺して引き摺るようなこともない。すばらしい表現力とテクニックを持ったチェリストであるにもかかわらず、話題にする人は少ないが、この曲のベスト盤と信じて疑わない。
 フルニエ/セル盤は、力強さや粘着性を押さえ、洗練された透徹した音楽で貫いた、一方の名演。セルの音楽性もフルニエの目標に沿っているが、スラヴ的なアクセントへのよき理解とベルリン・フィルの重厚な音とが、全体を軽くさせすぎることなく、バランスのよい演奏を生み出している。
 リヒテルやカガンとのトリオで知られるナターリア・グートマンがサヴァリッシュ~フィラデルフィア管と録音した盤は、比較的浅い呼吸とおだやかな起伏で、内面に沈潜した情感をていねいに描いた演奏だ。特に第二楽章の淡い悲しみの静かな語り口などは、この曲の一般的イメージを大きく変えるアプローチだ。
 ヨーヨー・マ/マゼール盤は、凝りに凝った語り口の巧みなマゼール指揮のオーケストラが、冒頭の長い序奏部から存在感がある。これでは独奏者の影が薄くなってしまわないか? と心配になるが、負けじと多彩多弁なチェロが繰り広がる。表情の豊かさでは、おもしろさ随一の快演だ。
 シュタルケル/ドラティ盤は、あふれるばかりの歌心を持ちながらも、張りのある剛直とも言える力を漲らせたチェロが、ドラティの大胆で直截な表現のオーケストラとよく合っている。筆者にとって原体験的演奏だが、いまだに魅力を失っていない。

《ブログへの掲載にあたっての追記》
 この原稿は、よく覚えています。原文は「レコード芸術・編」の『名曲・名盤300』に最終的に再録された前年の雑誌特集の掲載原稿です。例の「点数制」のもの。ネット上で、いまだに引用している方がいますが、その後、洋泉社の私の単行本に載せる際に、大幅に加筆したのが、この原稿です。もうこれ以上、今のところ特に付け加えるべきこともないように思います。つまり、その後、びっくりするような演奏に出会っていないということかもしれません。
 ワレフスカ盤はフィリップス録音です。ぜひお聴きください。グートマンはEMI原盤で、初出の東芝盤は私がライナーノートを書いています。


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