橋長戯言

Bluegrass Music lover, sometimes fly-fishing addict.
橋長です。

EHAGAKI #388≪住まいの意味≫

2023年03月30日 | EHAGAKI

2020年2月5日の投稿です。

いきなりですが引用です

 ◇ ◇ ◇ ◇

現代は、あらかじめ用意された住居が
個人の好みで建てられる時代である。

それは昔とは逆に人間関係を規定し
個人や家族を隔離し、社会のつながりを分断している。

今一度、人間どうしの豊かな関係が見える住まいを
考えなおすときが来ているのではないだろうか。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

これは京都大学総長の山極寿一氏の著書の一節です

ゴリラからの警告「人間社会ここがおかしい」

山極寿一著(朝日新聞出版)

長年、住宅販売を生業としてきたモノとしては大きなテーマであります

今回のお題は「住いの意味」
このEHAGAKIのメール以前、まさしくハガキで出していた時のネタ
そして山極寿一氏の著書からであります

◆実家の記録(LS HAGAKI Vol.33 2000.11.13 から)
住まいの意味(ゴリラからの警告「人間社会ここがおかしい」から)


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

LS HAGAKI Vol.33 2000年11月13日



面白いものを発見しました
私の実家の新築工事を、祖父が克明に記録していました

それによると  

計画及設計:昭和35年9月
工費予算:金参百萬円
施  工:橋長弥一郎
大工棟梁:清藤好濤
旧家取潰:昭和36年2月15日
起  工:昭和36年2月14日
上  棟:昭和36年3月15日
竣  工:昭和36年10月20日
落成式 :昭和36年12月17日

工費:3,366,259円
追加: 974,995円

合計: 4,341,254円

支払先/摘要:金額
枚方木材/木材一式:1,455,722円
石井窯業所(瓦熊)瓦一式(葺手間共):259,748円
津田組/栗石、砂利、砂:39,100円
土方建材店/セメント、ブロック:29,400円
矢田商店/壁土:7,200円
関本建材店/タキロン波板:2,700円
小阪タイル/タイル工事一式:74,786円
清藤大工/賃金:346,000円(↓出務表あり)
清藤大工/釘、金物一式、プラスタイル其他:23,483円
清藤大工/手傳賃金:19,000円
清藤大工/建築許可申請書代:5,000円
奥村建具店/建具一式:629,000円
古川天下堂/ニス、ペイント塗装一式:46,700円
谷川金物店/トタン板、ラス網:2,300円
和田金物店/タキロン波板:3,600円
大宅ブリキ店/銅版、戸置け、トタン張り一式:92,225円
松村左官/左官賃金、材料一式:113,760円
加門製畳所/畳一式:53,350円
山口電気商會/電気工事一式:51,000円
津田工業所/水道工事一式:16,530円
吉川酒店/瓦斯工事及び器具:11,800円
丸公商店/土管、便器其他:6,385円
吉川洋家具店/応接セット其他:77,470円
小計:3,366,259円

玉田、千松/石工賃及び一ツ石代:4,200円
吉田幸次郎/壁下地竹:5,000円
高槻建材店/曲り土管其他:800円
浜田建材店/換気鋼:540円
松原石材店/手水鉢穴堀及び沓石削り:4,200円
扇屋家具店/応接セットカバー:8,500円
近所お礼/酒、砂糖:13,500円
上棟式費(↓写真及び明細あり):112,170円
落成式費:39,170円
造園植繁其他:722,000円
片山塗装店/ペンキ塗装一式:65,000円
小計:974,995円

合計:4,341,254円

※それぞれの支払い先別にすべての明細が記録されていました
かなりの量(全66ページ)がありましたが割愛させて頂きます



まぁ、当時でも請負契約による工事が
多くなっていたらしいですが
この様に施主がそれぞれの業者さんに直接発注する
というのが本来の建築の姿なのでしょうか

とてもこのハガキでは書ききれませんが
木材や瓦を始めとするほぼすべての明細や
大工さんや手伝いの人の出勤簿
御祝いの明細から、おやつに頂いた「おはぎ」の数まで
記入してありました(日本酒1本510円 等)

当時、私は2歳でほとんど覚えておりませんが
午前・午後、それぞれ1回の休憩や昼食時、大工さんに
お茶やお菓子・酒・ビール等を出していました
(その後に見た建築現場や植木屋さんとオーバーラップしていると思いますが)

杉や檜の樹の匂い
のんびりと仕事をしている様な大工さんの
鉋掛の時の真剣な表情

祖父もこの「自分の家を建てる」ということに
「楽しみ・喜び」を感じていたんだなぁ

ということを、このささいな発見で確信できました

家を建てたり買う人にはもっと
プロセスにおいて「楽しみ」が必要ではないか

売る立場の我々には
「買うことの楽しみ」を含めて買っていただく感覚
そしてそれを「美学」としてこだわることが必要ではないか

と、現在の商人・職人として感じている今日この頃です
(2000.11.13)



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

住いの意味
ゴリラからの警告「人間社会ここがおかしい」から



人類進化700万年、定住をはじめたのはつい最近
1万2千年前に農耕や牧畜が起こる前は
移動しながら暮らす狩猟採集生活

サルや類人猿には奇妙な住居の歴史がある

最も原始的なサルたちは夜行性で
木の洞に安全な寝場所をつくり、そこで子育をする

原猿類はオスもメスも単独で暮らし
それぞれなわばりをもって対立している

交尾期になるとオスとメスが短期間いっしょになる
その後は再び別れ、出産後もメスは単独で子どもを育てる

子どもを置いて食物を探しにくため
寝場所はくり返しもどれるように、なわばりの中心部につくる

夜から昼の世界に進出しはじめると
サルたちは鳥に対抗するために体を大きくし
群れをつくって食物を探すようになる

原猿類が食べているような昆虫や樹液では
大きな体を維持できない

果実や葉を主食とするようになり
群れで広い範囲を遊動する様になる
そのため
巣を捨て広い範囲を移動しながら
毎晩違った木の上で眠るようになる

サルたちには
木の上で安定した姿勢で眠れるように尻だこが発達
赤ちゃんにも生まれたときから母親にしがみつく能力が備わる

人間に近縁なゴリラやチンパンジーなどの類人猿になると
さらに体が大きくなる

体を支えるべッドを木の上につくる必要が生じる
今でもすべての類人猿が、毎晩樹上に一人用のべッドをつくって眠る

樹上のべッドは、地上性の大型肉食獣から身を守り
安眠を保証してくれた
毎晩つくり変える簡単な造りで数分のうちに完成させてしまうが
とても頑丈でめったに落ちることはない

類人猿は生まれつきべッドづくりの能力をもつ
動物園生まれの個体でも、材料をあたえるとべッドをつくろうとする

しかし
人間はいつのころか、このべッドをつくる習性を失う
古い人類の遺跡からべッドは見つかっていない

熱帯雨林を出て草原に進出した人類
危険な肉食獣を避けるため、洞穴や岩壁など
べッドの材料が得られない場所で寝た

単独のべッドで寝るより
安全を期して家族や仲間と寄り合って寝る道を選ぶ

やがて家族や共同体が単位となる住居へとつながる
べッドは家のなか、親子や夫婦がいっしょのべッドで眠る
耐久性があり、何度も同じベッドで眠る

日本人はベッドを使わず、畳の上に布団を敷いて寝た

類人猿のべッドにあたる人間の構造物は
家であり住居のほうがべッドより古い
最近になって2次的に
べッドがつくられるようになったと考えられる

住居と住居の配置は家族間や集団間の社会関係
すなわち共同体の構造を反映していた

著者が子どものころ
まだ大工さんが家を建て左官屋さんや畳屋さんといった
いろんな職人たちの共同作業であった

棟上げのときには近所に餅を配り
近隣の住人が家のなかまで入ってきてあれこれ見てまわる

ところが
現代は、あらかじめ用意された住居が
個人の好みで建てられる時代

それは昔とは逆に
人間関係を規定し、個人や家族を隔離
社会のつながりを分断

今一度
人間どうしの豊かな関係が見える
そんな住まいを考え直す時ではないか

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


ということでした

住い、人類という広い範囲はともかく
日本、日本人にとっては、転換期であることは間違い

と、愚考する次第です

ではまた


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