散文的で抒情的な、わたくしの意見

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安定感のある谷口広克さんの「織田信長論」

2020年06月13日 | 織田信長
六月になってから17冊ほどの「織田信長関連本」を「読みなおしたり」、「初めて読んだり」しました。

そのうちの10冊ぐらいは「みんな同じことを言っている」という印象でした。TVにも出ている学者さんの本で、一次史料を駆使して信長がいかに「革命児でも天才でもないか」「信長のイメージがいかに虚像か」を書いているだけです。あまり生産性というものを感じませんでした。ダメ出しみたいな感じの本です。つまらない、と思いました。

そのなかで谷口克広さんの本は、「さすがだな」と感じさせてくれました。読み直したのは「信長の政略」、初めて読んだのは「織田信長の外交」です。

ここでは「織田信長の外交」の「はじめに」から、「共感した部分」を引用します。

(2014年)中世近世の各分野で顕著な実績のある研究者が、あえて信長を取り上げ、一般の読者向けにそれぞれ見解を披歴している。一冊一冊が立派な啓蒙書なのである。このような現象は、中略、私にも記憶がない。

数多くの「信長本」のなかで紹介されている信長は、それぞれ違った顔をしている。しかし、全体を通じて言えるのは、昔から評価されてきた「革命児」とかけ離れているだけでなく、「英雄」のイメージさえ薄れた地味な姿が描かれていることである。これは真実の信長像として受け入れるべきであろうか。

☆そして「学者」が「インパクトの強い説」を啓蒙書の形でだすことである種の「幻惑」が生まれはしないかと危惧しているとした上

私は、信長を革命児としても極端な英雄としても扱っていないけれど、彼の資質が他の戦国大名に比べて抜きんでていたことを認めてはいる。彼の天才的なひらめき、果敢な行動力については、信ぴょう性の高い史料からも読み取ることはできるからである。

そして、彼の行動を追って特に感じることは、彼がこの時代には珍しいほどの合理主義者だったことである。この合理主義こそが信長をして全国統一へ向けた原動力となったと考えてよいだろう。


こっからは私の意見ですが、非常に強い共感を覚えます。私が「みな同じ」と思った信長論は、おそらく関西系の流れをくむものであり、「多数派」なのでしょう。谷口広克さんは「大学の学者」ではなく、中学教諭出身の「信長の大家」です。だからこそ「党派にかかわりなく」、まっとうな意見を披歴できるのだと思います。多数派は正しいことが多いけれど、いつも正しいわけではない。特に信長関連ではそうです。「信長関連本、ドラマ好き」の私としては「大きな多数派の声」に惑わされることなく、「自分の頭で考えていこう」と思うのみです。