散文的で抒情的な、わたくしの意見

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TVドラマ「Nのために」・湊かなえ原作・いまさらの感想

2020年07月06日 | Nのために
TVドラマ「Nのために」、2014年放送、のいまさらながらの感想です。配信で見ました。湊かなえさんの原作は読んでいません。

事件は二つあって、商事会社勤務の資産家男性とその妻の殺人、それと島の料亭の放火です。

ただ、この二つに事件、ある意味「犯人がいない」のです。資産家男性を殺したのは、DVを受けていた妻で、妻は自殺します。料亭の放火に死者はなく、放火したのは料亭の主人です。

「未来ある若者」が四人でてきます。杉下希美、成瀬慎司、安藤望、西崎真人、杉下だけが女性で、榮倉奈々さん。成瀬が窪田正孝さん。安藤が賀来賢人さん。西崎が小出恵介さんです。

この四人が、殺人事件に関与するのですが、本当に「かかわった程度」で、犯人でもないし、犯意もありません。むしろ殺人は「事故に近い」ものです。

なぜか西崎が自首します。その理由が奇妙で、子供の頃の「罪の意識の贖罪をしたいから」です。別に彼は資産家夫婦を殺したわけではありません。しかし夫が妻を刺したので、かっとなって夫を殺したと言って自首します。まあ、かなり無理な設定ではあります。

杉下希美だけが、その事実を知っています。成瀬と安藤はあとで駆け付けたので知りません。成瀬はなんとなく分かっていますが、杉下が犯人だったらと思って、警察に何も言いません。杉下も西崎の意志を尊重して、話を合わせます。

西崎出所後、それをおかしいと思ったのは、元島の駐在の高野、三浦友和さんで、定年後、事件を追います。島の放火では高野の妻が傷を負い、精神的失語症になっています。放火は成瀬と杉下ではないか、と疑ってもいます。

こう書くと、高野は警官らしい警官に見えますが、実は成瀬と杉下のことを心から心配している善人でもあり、成瀬の親代わりでもあるのです。

とても「面白い」「深みのあるドラマ」なんですが、「全部勘違いの産物」ともいえるストーリーです。その勘違いを起こすのは「愛の意識」です。

「かなり変な人」が何人かいます。
1、やってもない罪を、誰の身代わりでもなく引き受け、10年刑務所に入った西崎
2、その彼の意志を尊重して本当のことを言わない杉下
3、料亭放火の犯人が、料亭の主人だと知りつつ、それを言わず、失語症になってしまう高野の妻(料亭の主人が死亡後も言わない)
4、わけのわからない理由で杉下希美とその弟、その母を追い出す光石研、それで病んでしまう母
5、そもそも精神的に不安定な資産家夫婦

特におかしいのが「4」と「5」で、「主人公たち4人」は、ある意味善良な若者たちなのです。

最初の感じでは「白夜行」みたいで、杉下と成瀬が罪を重ね、お互いにかばいあっていく人生なのかと思ったのですが、この二人、罪らしい罪は犯しません。成瀬がオレオレ詐欺に間違って関わってしまう程度です。

厳しい家庭環境で育った4人が、にも関わらず善良性を失わず、けなげに生きていくドラマなのに、なぜかずっと4人は「犯罪者的」な感じで描かれます。

「4人のうちの誰が本当の犯人か」という感じなのですが、その答えは「誰も犯人ではない。本当に4人は悪くない」のです。あえて言うなら安藤が外からチェーンをかけるというミスはしてますが。

そこが凄いのかも知れません。誰も犯人ではないミステリー。

杉下は最後末期の病気になります。彼女は善良な女性で、全く自業自得という感じはありません。むしろ「その設定はやめてくれ」と言いたくなります。

「感じ」としては成瀬と結ばれて「救われる」という感じなのですが、よくよく考えてみると彼女には全くの非はないので、病気ラストは「おかしい」と思いました。

「救う」なら、徹底的に救う。原作を無視してでも、助けて欲しかったと思います。一番素敵なのは、高校生である杉下と成瀬の距離が縮まっていく第二話かなと思います。

杉下希美を末期患者にする意味がわかりません。このドラマはミステリーというより、4人の人生を描く作品です。島から抜け出し、東京に渡った二人、杉下と成瀬が、15年後、結局「島に戻ることを決心」し、二人でレストランを運営して老人になるまで幸福に暮らしました。それでいいかと。病人にしてしまうのは極めて不条理です。まあ私はハッピーエンドが大好きなので、そう思うのでしょうが、なんにも悪いことしてないのに、杉下がかわいそうです。