一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第4回 中井広恵の将棋合宿(第5手)・カロリーナさんの熱局

2012-05-30 00:31:31 | 将棋イベント
西武秩父駅前の食事処で美味しい昼食を摂り、午後1時40分、「越後屋」に戻る。表はきょうも快晴だが、私たちにはまったく関係ない。ここから将棋マラソンの再開である。…あれっ?
「な、中井先生、髪切りました?」
「いまごろ気づいたの?」
ああ、そうか…。中井女流六段が活動的に見えたのは、髪をバッサリ切っていたからなのだ。
「オレなんか(きのう会ったときに)すぐ気づいたよ」
とW氏。
以前も書いたが、どうも私は女性の髪型に鈍感でいけない。数センチ切っただけではまるで分からず、島井咲緒里女流二段のようにバッサリとショートカットにして、初めて気づく有様である。これだから女性に縁がないのだろう。
対局の前に、女流王座戦一次予選が気になる。午後1時からは、高群佐知子女流三段と、カロリーナ・ステチャンスカ(ポーランド)戦が行われている。幸い対局中継もあるので、その将棋を大盤に並べる。
戦形はカロリーナさんの石田流三間飛車。序盤はソツなく指し、8筋からの飛車先突破を見せて、カロリーナさんが有利に見える。これはひょっとしたらひょっとするのではないか。
現在の局面に追いつき進行が滞ったので、私たちは対局に戻る。Kun氏、Kaz氏は諸先生方と指導対局。私はFuj氏とリーグ戦である。私の石田流三間飛車に、Fuj氏は角を換えて持久戦に舵を取る。
私は7九の銀を5八まで持っていったが、これがどのくらい有効だったか。さらに私は▲6八金と寄ったが、これが疑問。すかさず△8八角と打たれて不利になった。
この辺りFuj氏は、私が投了するのではないかと期待?していたらしい。バカヤロ。いくら諦めのいい私でも、さすがにここでは投了しない。ちなみにFuj氏は諦めが悪く、勝ち目のない局面でもなかなか投了しない。今回の合宿でも大野八一雄七段との指導対局がそうで、やはり延々と指していた。いま、勝ち目のない将棋を無意味に粘ることを私たちは、「Fuj(名字)」と呼んでいる。
将棋に戻る。Fuj氏に玉頭を手厚くされたら手も足も出なかったが、Fuj氏は△5五歩。私は▲5九飛と寄って、局面がほぐれてきた。
それでもFuj氏の優勢だったが、徐々に差が詰まり、最後は私の逆転勝ち。1日に5時間将棋の勉強をしているFuj氏、勉強時間ゼロの私に負けたことはショックだったろう。
高群−カロリーナ戦に戻る。カロリーナさんの▲8四歩〜▲8三歩成を先受けして、高群女流三段△7二金から△8三金!! 「受けの高群」らしい力強い手だが、これで後手がいいとは思えない。
しかしカロリーナさんの攻め急ぎがあったか、局面は紛糾、むずかしい戦いになった。こちらは中井女流六段、植山悦行七段、大野七段のリアルタイム解説つき。あらゆる変化が並べられる。
107手目▲3五銀捨てに△4五玉と桂を外したのが失着。△3五同玉なら後手が残していた。しかし1分の秒読みではやむを得ない。
カロリーナさん、▲1八玉と歩を取って詰めろを外す。冷静だ。次に▲3二竜△同銀▲4六金があるから高群女流三段は△3五玉だが、カロリーナさんは▲7八角の詰めろ飛車取り! これにてカロリーナさん勝ち、と植山七段のご宣託があり、植山七段は対局に戻った。
残った中井女流六段と大野七段、私たちは、なおも進行を見守る。しかしここからが本当の見所だった。
数手後▲8九角が実現したが、高群女流三段は△5六桂と粘る。これですぐに寄りがないのは驚いた。繰り返すが、さすがに「受けの高群」である。
ここから両者ほぼ最善手が続く。と思われるのは、中井女流六段の検討どおりに局面が進行したからだ。
ちょっと、この将棋があまりにも面白すぎて、リーグ戦を指すどころではない。「急造控室」ではカロリーナさんが寄せきるか否かで、熱気を帯びていた。
高群女流三段、△3九銀の詰めろ! ここで受けに回ってはカロリーナさん、勝てない。
どうするのかと見ていると、▲6一銀の捨て駒が飛び出した。これは「控室」でも出なかった手だ。以下▲7一竜までカロリーナさんの勝ち!
これは大変なことになった。外国籍女性が公式戦で、ついに女流棋士に勝ったのだ。カロリーナさん、終始落ち着いた指し回しで、実に堂々とした戦いぶりだった。今期のベストバウトだったと思う。
植山七段が検討を打ち切ってから、30分以上も時が経っていた。惜しむらくは、この将棋が公開対局でなかったこと。生で見られたら、どんなにエキサイトしたことか。これは女流王座戦も来期は、一次予選の公開対局を考えるべきだろう。
(つづく)
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きょう29日は、山口恵梨子女流初段×室谷由紀女流初段戦!!

2012-05-29 00:04:32 | 女流棋士
日付変わってきょう29日は、女流名人位戦B級リーグ・山口恵梨子女流初段と室谷由紀女流初段の一局が行われる。両者は東西を代表する美人女子大生棋士で、「私が勝手に選ぶ女流棋士ファンランキング」の2位と4位にランクしている。
山口女流初段は前期、室谷女流初段とともにB級リーグ入りしたが、惜しくも陥落。しかしすぐに復帰したのは立派だった。
ふたりはここまで0勝2敗。リーグを残留するためには、絶対に負けられないところだ。
しかし本局もB級リーグなので、ビジュアル的にも絶好の本局に、観戦記者はつかない。いつも思うのだが、もったいないことだと思う。オレに観戦記を書かせろッ!!
きょうは一日、東京・将棋会館に気を送る。どちらも力一杯戦ってもらいたい。
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第4回 中井広恵の将棋合宿(第4手)・待ち受け画面の衣替え

2012-05-28 00:05:51 | 将棋イベント
「いま詰んでたよね」
後ろで観戦していたIs氏に言われ、私は振りむいた。「▲8五竜と引いて…」
「あっ!!」
▲2四金△3五玉に、▲2五金が文字通りの敗着。ここで▲8五竜と引けば上手の合い駒が悪く、上手玉が詰んでいた。一例を挙げれば、△7五桂▲同竜△同歩▲2五金△3六玉▲4八桂まで。竜は横に使うことばかり考えていて、縦に使うことが視野に入っていなかった。
「私も読んでいるうちに気づきました」
と中井広恵女流六段。
まさかこの将棋に勝ちがあったとは…。将棋は最後の最後まで諦めてはいけない、と教えられた。
中井女流六段、内容は完璧だっただけに「5分切れ負け」は上手に負担なし、の主張は変わらなかった。やはり下手の考慮中に、上手が考えられるのが大きいらしい。しかし私は、下手が上手のペースに惑わされなければ、下手が有利に指せると思う。
隣りの某企業は宴会も終わり、部屋に戻ったようである。まあ、ふつうはそうであろう。深夜まで将棋を指している私たちがバカなのだ。
19日午前1時すぎ、植山悦行七段が就寝。その30分後、中井女流六段も席を立った。ついに就寝である。
「反省してほしい!」
浴衣を着なかった中井女流六段の背中に、私は切実に投げかける。明日の夜、私の願いは届くのだろうか。
私たちはまだ将棋を続ける。Hon氏とFuj氏はリーグ戦の真っ最中。お互い穴熊に囲っており、いつ終わりが来るのか想像もつかない。
私はR氏と練習将棋。私は再び5分切れ負けである。将棋は相横歩取りに進む。定跡どおり指したつもりが、いつの間にか私が悪くなっている。よくよく考えたら、△2八歩▲同銀の交換を入れず指し手を進めていたのだ。
Hon−Fuj戦は、これだとお互い時間を使い切っちゃうから、切れ負けはなしにしましょう、とか言っている。それをやったら切れ負けの意味がないと思うのだが、ふたりは意に介さない。
私とR氏との対局は、私の逆転勝ちになった。R氏、やや焦ったか。
Hon氏とFuj氏の将棋が終わり、Hon氏も床に就いた。Is氏も部屋に戻っている。これで残りは6人になった。と、W氏が「(大野先生、)じゃあ将棋を教えてください」と、大野八一雄七段の前に座った。W氏、冗談ではなく、本当に将棋が好きなんじゃないか? まさかまさかの、将棋バカなんじゃないか??
His氏に請われて、私はまだ将棋を指す。しかし35分切れ負けのリーグ戦は指せないので、10分切れ負けの練習将棋にした。
将棋はHis氏のゴキゲン中飛車。序盤で作戦負けになったが中盤で盛り返し、こちらの模様がよくなった。しかしそこからHis氏の指し回しが巧みで、私が負けた。
横を見ると、W氏の対局相手がR氏に変わっており、局後の感想戦もそこそこに、ゴキゲン中飛車の研究に入っていた。もちろん大野七段の講義つきである。W氏、こんなに将棋が好きだったとは…。
とはいえこの研究が面白く、つい私も聞き入ってしまう。時計を見ると、3時半である。こんなことをやっていたら、マジで夜が明けてしまう。私がギブアップ宣言して、合宿1日目はここでお開きとなった。

2日目は朝8時から朝食。私は旅先において、朝食がなくても厭わないが、あればあったでしっかり摂る。バランスの取れた食事が美味かった。
一服したあと、9時10分からHis氏とリーグ戦。His氏の▲7六歩に私は△8四歩。△3四歩だと角を換わって筋違い角に来られるから、それを避けた。
His氏の三間飛車に私は玉頭位取りに出るが、▲2七銀から▲3八飛〜▲3五歩の逆襲が好着想だった。△3五の位を奪還され、3四の地点にカナケを打ちこまれて後手敗勢。とくに反撃のスジもなく、私の完敗となった。
10時からはペア(リレー)将棋の趣向となる。中井女流女流六段・植山悦行七段(飛車落ち)−W・Hon、大野七段・R・一公−His・Is・Fujの2局である。
こちらの将棋はHis組の三間飛車。大野七段が早々と▲4六歩と突いたので、それを継承して▲4五歩と突いたが、桂が参加していない攻めではいかにも軽かった。
大野七段は、作戦の骨子となる▲4六歩を先に突けば、あとで私たちが▲5六歩〜▲3六歩〜▲3七桂と進めてくれるものと思っていたらしい。お互いのことを考えるがゆえに、指し手がチグハグになる。ここがリレー将棋の奥深いところである。
結果は大野チームの勝ち。序盤の作戦で少し乱れたが、あとは指し手も一貫しており、まるでひとりで指しているかのようだった。
ところできょうは女流王座戦一次予選の対局日。何局か中継が用意され、そのうちの一局は午前10時からの長谷川優貴女流二段−中倉彰子女流初段戦である。長谷川女流二段の圧勝になると思うが、将棋は何が起こるか分からない。
私たちはスマホで中継を見る。後手・長谷川女流二段のゴキゲン中飛車に、彰子女流初段の作戦は居飛車穴熊。しかし飛車のコビンを開けた▲3六歩が不用意で、△5五角と飛びだされては、一遍に彰子女流初段の模様が悪くなった。どうも男性プロ的には、ここで「終わった」らしい。
▲5七角▲5九飛、△5六金・持駒歩2の局面で、△5八歩▲同飛△4七金▲5九飛△5八歩が決め手。こんな教科書どおりの攻めが炸裂しては、彰子女流初段、もういけない。長谷川女流二段の完勝となった。
さて、きょうは昼からKun、Kazの両氏が合流する。私たちはクルマに乗って、彼らを西武秩父駅に迎えに行った。駅に着くと、すでにふたりは到着していた。
きのうから参加の生徒7人は、三度のメシより将棋が好きという変わり種だが、Kun氏とKaz氏はそれ以上だ。聞くと特急電車の中で、「レッドアロー杯」を戦っていたという。いくら私だって、電車に乗れば車窓を楽しむ。何が楽しくて、あの狭いシートで将棋を指さねばならんのだ。彼らが加わって将棋色が薄くなるどころか、さらに濃くなった。
西武秩父の駅前は、「仲見世通り」と称して、ミニ商店街になっていた。小鹿野は「わらじかつ丼」が有名らしいので、それを食べさせる店に入った。
といっても私が頼んだのは天ぷらうどん。ちょっとお腹がもたれて、かつ丼はキツかったから。
私のナナメ向かいには中井女流六段が座った。きょうはサッパリ系のいでたちで、テレビ局に勤めるやり手のプロデューサー、という感じだ。
「中井先生、私のスマホの待ち受け画面、そろそろ新しいのにしたいんですけど…」
言うまでもないが、私のそれは、中井女流六段である。昨年12月、大野七段の「竜王戦昇級記念・焼肉大パーティー」のときに撮らせていただいたものだ。今回はその第二弾というわけである。
私がスマホを構えると、中井女流六段が素晴らしい笑顔を見せてくれた。
何枚か撮ったあと、中井女流六段に待ち受け画面の切り替え作業をやってもらう。被写体にここまでやらせてしまうのが私流である。
作業終了。あらためてスマホの画面を見ると、中井女流六段が穏やかに微笑んでいた。
(30日につづく)
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第4回 中井広恵の将棋合宿(第3手)・幻の浴衣

2012-05-27 00:05:35 | 将棋イベント
「詰んだ!」
R氏が頓狂な声を上げる。やったか、R氏! 植山悦行七段も対局に戻り、ほどなく投了。R氏、大殊勲の指導対局2連勝となった。
さて、ここからいよいよ将棋三昧である。この旅館は持ち込みはヤバイのだろうが、私たちは飲み物とお菓子を、恐る恐る持ち込んだ。
私はHon氏とリーグ戦。Hon氏は自他ともに認める将棋バカだが、仕事のほうが忙しく、将棋の勉強に時間を割けないはずだ。それなのにHon氏は、戦うたびに強くなっている。これはどういうわけだろう。
Hon氏の後手変態三間飛車穴熊に、私は玉頭位取りに出る。中盤、Hon氏は△5五歩▲同歩△3六歩。私は▲同歩の前に▲2四歩だが、これが疑問。Hon氏に△同角と取られて参った。ここで予定の▲3六歩は、△同飛▲3七歩△7六飛(と銀を取る)▲同金△5七角成(と銀を取る)で先手敗勢。
やむなく私は▲2四同飛△同歩▲3六歩△同飛▲1七角(△4四金取り。金が逃げれば▲3七歩)だが、こんな角を打つようではつらい。以下もずぅっとむずかしい戦いだったが、最後は私が幸いした。
キリのいいところで温泉に行く。浴室はそれほど大きくはないが、綺麗だった。
体を洗っていると、Hon氏も入ってきた。私は頭を洗うが、鏡に映った頭髪がひどいことになっている。また薄毛が進行したんじゃないか!?
「Honさん、どうしよう!」
湯船に入り、Hon氏にわが窮状を訴える。Hon氏は、この歳になれば誰にでも起こりうること、と前置きしたうえで、養毛剤を使うなりすれば、まだ改善の余地はある、と慰めてくれた。
助からないと思っていても、助かっているのだろうか。
脱衣所で浴衣を着る。廊下で、きらびやかな女性とすれ違った。奥を見ると、そんな女性が何人もいる。となりの部屋の某企業が雇った温泉コンパニオンであろう。そんな身分になってみたいが、私たち将棋仲間には、コンパニオンは不要だ。
大広間に入る。時刻は9時半。今度は大野八一雄七段に角落ちで教えていただく。
居飛車でスタートしたが、△6四歩に▲6六歩と受けなかったため、△6五歩と位を張られて苦しくした。私は6筋の歩を切り、矢倉城を構築する。
これで持ち直したと思ったのだが、▲3七角と上がったのが悪手。すかさず△3五歩と突かれ、今度こそホントに苦しくなった。以下も頑張ったが、形勢を挽回することはできなかった。
感想戦では、私がずーっ作戦負けだと思っていたのに、大野七段は自分が悪いと思っていたそうで、それが意外だった。▲3七角に換わる正着は▲4六歩。これで徐々に盛り上がっていけば、下手が十分とのこと。指摘されれば当たり前の手だが、まったく浮かばなかった。要するに、これが私の実力ということだ。
中井女流六段が温泉から上がってきた。しかしふつうのトレーナーを着ているので、肩透かしを喰った。スポーツ選手がグランドに出るときはユニフォームを着る。海に入るときは海水パンツを履く。温泉旅館に泊まったら、浴衣を着るのがスジというものだろう。
温泉といえば中倉宏美女流二段だが、宏美女流二段ならどうだったか。髪をアップにして、浴衣を着てくれたのではないだろうか。そんで私たちがヒューヒュー、とやってスマホを構えたら、オホホホ、と笑って、おずおずとポーズを取ってくれたような気がする。
いずれにしても中井先生、ガッカリであった。
その中井女流六段に、再び教えていただく。この合宿では、限度はあるが、何局教わってもいいのだ。風呂上がりの中井女流六段と将棋。この瞬間、たしかに私は幸せだった。
将棋はひねり飛車模様。しかし中井女流六段に△7四歩とされ、むりやり▲7五歩と動いたが、以下角を圧迫され、気がついたらこちらの指す手がなくなっていた。無念の投了。
続いてR氏とのリーグ戦。R氏とは私が香か角を引く手合いなのだが、R氏は平手を望む。その代わり持ち時間にハンデを持たせ、R氏の35分に対し、私の5分切れ負けになった。
将棋は私の後手四間飛車。R氏の急戦表示に私は△3二飛だが、▲4六歩にまた△4二飛と戻した。後手番のうえに2手損を重ねては、さすがに悪い。R氏に仕掛けられ、早くも私が指しづらくなった。
ここで迎えた終盤、R氏▲5八金、▲8八玉、私△3九竜、△4六馬・持駒角、金の局面で、私は2分の考慮時間を使い、△7九角。以下▲7七玉△6八角成▲同金△7九竜で、私の勝ちになった。
しかし5分切れ負けは厳しい。ほとんど考えることができなかった。…と弱音を吐くと、中井女流六段が異議を唱える。プロから見ると、5分切れ負けはそれほど厳しくないらしい。
それならと、私と中井女流六段が、そのルールで指すことになった。本日中井女流六段と3局目である。もう、こんな幸せがあっていいのかと思う。
対局開始。5分で切れる中井女流六段は文字どおりノータイム指し。私も少しは考えるが、やはり指し手は早い。将棋は矢倉模様に進み、中井女流六段は△5三銀と上がった。
中井女流六段は後手番のとき、あまりガップリ四つの矢倉にはしない。私は流れ矢倉の布陣になったが、相手の早指しにつられ、私もノータイム指しになっていた。これはよくない。
△8六歩▲同歩△8五歩▲同歩△7三桂。ここで私は自信を持って▲8七歩と打った。△8五桂なら、▲8六角と出て下手も戦える。
ところがこの瞬間、周りから悲鳴が上がった。
「(▲8七歩は)二歩!!」
「ああっ!!」
何をやってるんだナニを!!
「二歩」は昨年6月、LPSAマンデーレッスンSで、植山七段相手にやって以来。そのときは2枚の歩は離れていたが、今回は一間飛びである。これはヒドイことをやったものだ。
もちろん歩を戻して再開したが、二歩をやるようでは先が見えている。中井女流六段に端を攻められ、攻防ともに見込みなし。私は潔く投了した。
それにしても…である。同じ負けるにしても、もう少し中井女流六段を苦しめてもいいのではないか。私は中井女流六段に、泣きの再戦を申し込む。実に本日、4局目である。
今度の戦形は横歩取り。中井女流六段は△8四飛型に構える。中井女流六段は意外とこの型が多い。
序盤はまずまずだったが、徐々に形勢が傾き、順当に私の敗勢。最後、中井女流六段がわざと危険なところに逃げてくれたので、見せ場を作ることができた。その最終盤が下の局面である。

上手・中井女流六段:1一香、1三歩、2二銀、3四玉、4三歩、5三歩、5四香、5六銀、6二金、6三歩、7四歩、8九馬、9一香、9三歩 持駒:飛、角、桂、歩6
下手・一公:1六歩、1九香、3六桂、3七桂、3八銀、4七歩、4九金、5七桂、5八玉、6七歩、7六歩、7八金、7九銀、8一竜、8七歩、9七歩 持駒:金

ここで私は▲2四金の形作りに出る。△3五玉▲2五金△3六玉に、万策尽きて私は投了した。
ところが…。
(つづく)
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第4回 中井広恵の将棋合宿(第2手)・贅沢な話

2012-05-26 00:17:17 | 将棋イベント
「越後屋」は街道沿いにあり、かなり年季の入った、純和風の建物だった。玄関を上がり廊下に出ると、壁に日本将棋連盟のカレンダーが掛けられていた。5月は三浦弘行八段だ。ちなみに6月は、清水市代女流六段ら女流棋士4人だった。
その先に大部屋が2つあり、そのひとつが私たちの将棋部屋となる。団体名は「W様」となっていたが、これはいかにも味気なかった。次回以降は、何か気のきいた名前にしなければならない。ちなみにもうひとつの部屋は、某企業の囲碁部が入っていた。
宿泊部屋はその奥にあり、2人部屋、3人部屋、5人部屋がまとまっていた。5人部屋に入ると、畳を張り替えたのか、蓬の香りがした。ひとり旅ならのんびりするところだが、今回は将棋合宿。ここへは寝に来ることしかないだろう。
まだ午後3時前である。宿に来る途中、郵便局があった。今回は旅行ではないが、記念に貯金をしようと思う。私はリュックを背に、宿を出た。
宿の向かいに羊羹屋がある。情報によると、街では有名な和菓子店らしい。店に入ると、日曜日も営業しているとのこと。誰に買うわけでもないが、ここは最終日に寄ろうと思う。
先ほどまで厚い雲がかかっていたが、いまはすっきりと晴れ、汗ばむくらいだ。
知らない街をぶらぶら歩くのは、旅の醍醐味である。沿道に「小鹿野歌舞伎」の文字が躍っている。ここは小鹿野(おがの)という地名らしい。
路線バスが通じている。これは西武秩父駅に向かうようだ。条件反射で乗りたくなるが、それをやったら、中井広恵女流六段と盤を挟むことができなくなる。今回は将棋合宿なのだと、自分に言い聞かせる。
宿から約1キロ、かなり大規模の郵便局に着いた。「小鹿野郵便局」518円。
まだ先へ行きたいが、引き返すよりない。お茶の専門店がある。こじんまりした造りで好感が持てるが、店主は奥に引っ込んでいる。翌日にまた寄ろうか。
宿に戻った。植山悦行七段ら数人は玄関横の囲炉裏部屋でくつろいでいた。色紙が何枚か飾られてあり、囲碁棋士数人に混じって、小倉久史七段のサインがある。「一歩千金」。確認できなかったが、ほかに及川拓馬四段の色紙もあったらしい。
中井女流六段らもサインをするのはやぶさかではないが、自分から「私たちはプロ棋士です」とは言えないだろう。どうなるのだろう。
大広間の将棋部屋に入る。若女将は、松尾香織女流初段に似た美人だった。緑茶と和菓子が美味かった。
しかし用意されていたチェスクロックはアナログで、秒読み機能がなかった。これは大誤算である。また温泉も、夜10時半までの入浴とのこと。24時間入れると聞いていたから、これも痛い。まあ、リサーチ不足と思って諦めるよりない。
3時45分、全員が大広間に揃った。Fuj氏お手製の対戦表(リーグ戦)がホワイトボードに貼られる。結局、持ち時間は35分切れ負けとした。ただし指導対局は、その限りではない。
私はR氏とともに、中井女流六段に教えていただくことになった。ほかの対局は、植山七段−W・Hon、大野八一雄七段−His・Is・Fuj。
駒を並べ終えると、ナナメ向かいの植山七段が、「平手ですか」と言った。
植山七段や大野七段との手合いは角でお願いしているし、実際中井女流六段との平手対戦成績も、私の1勝14敗である。しかしLPSAのほかの女流棋士とは平手の手合いでいい勝負なので、ここで中井女流六段に駒を落としてもらったら、ほかの女流棋士に失礼なことになってしまう。私もつらいところなのである。ちなみにR氏は飛車落ちだった。
一礼して対局開始。平日の昼間、温泉旅館で、女流棋士ファンランキング1位の中井女流六段に将棋を教えていただく。将棋ファンにとって、これ以上の贅沢があろうか。私は現在の境遇を必ずしも幸せに思っていないが、実はとても幸せなのかもしれない。
私の四間飛車に、中井女流六段は△5三銀から△3二飛。相振り飛車になってしまった。私の苦手な戦形だ。
△3五歩とされるのを嫌って私は▲3六歩だが、すかさず△3五歩から歩交換をされた。
私は▲3七銀から▲3八飛。しかし△6二玉に、▲3六銀と立ったのはマズかった。中井女流六段にすかさず△5五角と飛びだされ、▲1八飛では▲3六銀がタダだから泣く泣く▲3七歩だが、これでは下手大損である。
以下も中井女流六段に存分に捌かれ、完敗。まったくいい所がなかった。局後の検討では、▲3六銀で▲2八銀と飛車交換を迫るのがよいとされた。飛車交換なら、すでに△5二金左と上がっている上手が面白くない。といって上手が飛車交換を避けるのも気合が悪い。下手はこう指すべきだった。
とはいえ下手は▲3八飛と戻すべきではなかった、と中井女流六段の意見だ。たしかにそうで、相振り飛車で指し続けるのだった。これからは相振り飛車の感覚も身に付けたい。
左のR氏は善戦している。終盤に入り、いつものスットコドッコイな手が出るかと思いきや堅実な指し手が続き、ついに中井玉を仕留めた。R氏、殊勲の銀星だった。
順次対局が終わり、私は植山七段に角落ちで教えていただく。序盤で二歩を交換し、まずまず指せると思ったが、焦って攻めたのが無理だった。以下惨敗に終わる。
注目のR氏は、植山七段(飛車落ち)相手にまたも善戦。▲6一銀の好手を交え、上手玉をあと一歩のところまで追い詰めている。指導対局で下手が勝つことはむずかしい。中井女流六段に続いて植山七段からも白星を獲得すれば、これはR氏、早くも今合宿の最優秀選手となる。
しかしもうすぐ夕食の時間だ。同じ大広間の別テーブルに、すでに夕食が用意されている。キリがないので対局を中断し、夕食に入った。ではここで、席の配置を記そう。

 His Hon    R 大野 Is

中井 W Fuj   植山 一公

中井女流六段の向かいが最上だとは思うが、ビールを飲むテーブルと飲まないテーブルに分けられ、飲まない私は中井女流六段と対極の位置になってしまった。
残念ではあるが、横とナナメ向かいには男性棋士がいる。その状況だけでも、ありがたいことである。
夕食は一品一品手が込んでいて、美味かった。ひとり旅なら、絶対にありつけないごちそうであった。
食後の談笑もそこそこに、R氏が将棋盤の前に戻り、こんこんと考えている。勝ちは見つけられるのか?
(つづく)
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